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いじっぱりなシークレットムーン
第12章 Fighting Moon
 


 ……だけどあたしにだって、わかっている。

 今のは完全な勝利ではないということに。
 
 忍月より格上の、潰したくない見合いの席に先方がいるから、当主は抑えているのだろうことに。

 孫から愛されていない事実にショックはあっただろうが、おとなしくなったのは、当主としての矜持と、外面的な面目ゆえ。見合い相手がいなかったら、またきっと状況は違う。

 あたしと衣里はそこをめがけて突き、当主は、美幸夫人が朱羽や専務の母親にしたことを真下家に知られないために、あたしに怒鳴っただけにしか過ぎない。

 本来の当主は、もっと残虐性を秘めているとあたしは思うのだ。

 発作で倒れた朱羽に手を差し伸べなかった当主。
 美幸夫人のやりすぎを黙認していた当主。

 ひとの命をなんとも思っていない相手から、罵詈雑言浴びる覚悟で居たのに、これでは拍子抜け過ぎる。

 名取川文乃も言っていたのだ。彼女の力は当主に勝てないと。

 なのに彼女に圧倒されたあっけない終幕は、あたしの願う終幕とは違うものなのだろう。

 この見合いの席を潰すだけではいけないのだ。真下家が駄目でも次がある……そう思わせてはいけない。見合いそのものを潰さないと。

 もっと根本的な意識改革が必要なのだ。

 真下家がいない当主の独壇場であたしは頑張らねばならないのだ――。

 どうすればいい?

 ここで打ち切らずに、次に繋げていくためには。

 このままだと、また朱羽の危機が再発しそうな気がする。

 どうすればいい?

 次の一手は――。

 
「さて、忍月のご当主。陽菜を我が娘だと知らなかったとはいえ、随分なことをして下さいましたね」

 冷えた名取川文乃の声音が、あたしの思案を切り裂いた。

 顔を上げさせられた瞬間、額がズキンと傷んで思わず声を上げてしまう。

 ああ、当主が投げた湯飲みで、額に傷を作っていたのか。

 傷んだ場所……前髪とのちょうど生え際を手で触ると、どろりとした赤い血がついた。

 名取川文乃は、懐から白いハンカチを出して、血を流す額を拭いてくれた。
 
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