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いじっぱりなシークレットムーン
第12章 Fighting Moon
 

「あの……ハンカチが汚れますから」

 額から外されたハンカチを見てあたしは驚く。

 白い布が真っ赤だったからだ。

 確かに頬あたりに、なにか生温かいものが伝ったとは思ったけれど、そこまで流れるのは汗だと勝手に思っていた。だが、実際に流れたのは、額の傷から流れたあたしの血、だったらしい。

「なにを言うの。こんなに血を流していて」

 恥ずかしい。こんな姿を皆に見られていたのか。

「ご当主。うちの娘に、ここまでの血を流させたことの責任、当然考えられていますわよね?」

 冷ややかな声が部屋に響き渡る。

「いや、いいんです。避けなかったあたしが悪……」

「嫁入り前の娘を傷つけて、そのまま放置ですか、ご当主!!」

 怒声に当主の謝罪の言葉があった。

「すまない……」

「すまないですむなら警察は要りません。傷が残ってしまったら、どう責任を取るんですか!? 訴えてもよろしいんですわよ!?」

「それは……」

 ああ、もしかして――。

「この後、陽菜を病院に連れ、後日改めて忍月の本家にお伺いいたします。話はその時に。よろしいですわね?」

 名取川文乃は、忍月に入る理由を作ってくれたのだ。

 だが、その魂胆を知ってか知らずか、名取川文乃に言われるままではなく、忍月当主は本家の門戸を開かなかった。

「いやわしがそちらに伺おう。謝罪する身で、ご足労頂くのはどうも気が引けます。ご連絡を下さい、名取川家に参りますので。勿論……陽菜さんはいらっしゃいますな」

 もしかすると、あたしがちゃんと養女として生活しているのかも確かめる気かもしれない。

 こうなれば、たとえ名取川文乃といえども、否とはいえず、それで押し切られるようにして話がついてしまった。

 ワンクッション置くしかないのか。

 そのワンクッションは、未来に繋がるのだろうか。

 
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