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いじっぱりなシークレットムーン
第4章 Secret Crush Moon
衣里は続けた。
「私もね、香月課長ではないと思うの。もしも香月課長が陽菜を苦しめさせたくて、メールを送りつけていたとしたら、陽菜をもっと困らせるために人の目がある一階に居させると思う。こんな安全なところに隔離せずに。だけど香月課長は、定例会が終わったらすぐ陽菜をここに入れたじゃない」
「……」
「定例会でもあんたを庇ったでしょ。犯人にされたくないから、味方のふりをしている…と考えるには、香月課長にも波風立ちすぎてるのに動こうとしなさすぎる」
「動こうとしない?」
「うん。メールを送ったこと、写真にあるようにあんたにキスする仲なのか、皆から質問づくしだったのに、否定も肯定もなにもしていないの。だからまあ、騒ぎが鎮まらないのもあるけれど」
「……」
香月課長がなにも言わないのは、なぜ?
犯人扱いされて、あたしに遊ばれたような写真の事実を言わないのは?
そして――。
「結城はどうしてる?」
「結城も笑い飛ばして煙に巻いてるわ。あいつも真偽のほどは口にしていないわね。"お前はどう思う?"と逆に相手を質問して、のらりくらりとかわしている感じよ」
「香月課長に対しては怒ってないの?」
「うん、私が見ている限り、昨日みたいにカッとなって、課長に詰め寄ろうとしてないし、話しかけようとすらしていない。まあ、私が出社した時にはあのふたりもう来ていたから、私のいない時になにか話していたのかもしれないけれど」
結城も香月課長が犯人とは思っていないのだろうか。
「……どっちも弁明してないんだ」
「うん。……あのふたり、わざと一階で矢面に立って、陽菜に被害がこないようにしている気がするわ。本当なら結城が一番、あんたを庇いたいはずよ。それなのに声もかけようとしていないじゃない。絶対あれ、私に陽菜のこと任せた気になって、なにか策を考えていると思うわ」
そして衣里はあたしをまっすぐに見て言った。
「あんたをここに寄越した香月課長も、もしかしたら対策を考えているかもしれないわね」
……そうだろうか。
自分を失望させる女を助けるようなことを考える?
だけど――。
あのざわめきを、手で机を思い切り叩くという荒技で鎮めたあの課長を、あたしは信じたい気になったんだ。