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いじっぱりなシークレットムーン
第4章 Secret Crush Moon
 

 ***


 午前九時四十五分――。

 なんとかぎりぎりでセット出来たタブレットを回収しに、デザイン課とシステム課の若手が社員がやってきた。

 そこには千絵ちゃんは居なかったが、皆が目をキラキラさせてあたしを壁際に追い詰め、質問攻めにしようとした。

 その時。


 バァンッ!!


 大きな音をたててドアを開いた入り口に立つのは、腕組をした香月課長。

 どうやらその長いおみ足で蹴り飛ばして、乱暴にドアを開けたようだ。

 真っ白いドアの真ん中に、スマートな靴跡がくっきり見えている。


 怖っ!!



「タブレット、運んで下さい」


 冷ややかな声。ご機嫌よろしくない課長に睥睨され、タブレット運搬係は身体を小さくさせて、タブレットを手にして出ていった。
 
 続けて課長も出て行こうとしたから、慌てて課長の手を強く引けば、右手の包帯の手だった。

 よく見れば、凄く綺麗に包帯が巻かれている。

 これ、課長が左手で巻いたの?


 随分とぐるぐる巻きで、手が動きづらそうだが、巻き方はとてもいい。

 思わずじっくりその手を観察していれば。


「……嫌がらせですか?」


 ああ、ごめんなさい。ぎゅっとしたままだったよ。
 

「い、いいえ! たまたまです。その手どうしちゃったんですか?」

 すると課長は自嘲気な笑いを作って、包帯を見た。


「……気がついたら、血まみれの手のまま出社していて、手当して貰いました」


「気がついたらって、無意識でそんなになるんですか!?」

「なってましたね」


 それはホラーだよ、笑い事じゃないのに笑わないでよ、不気味だから。

 大体――。


「その手で仕事出来るんですか!?」

「……今日は細かい作業は控えます」


 そりゃそうだよ、ITは手が資本。

 こんなだったらキーボードも叩けないんじゃないの、バチバチと。


 いや、それより――。


「……」

「……」


 長い静寂を、あたしは自ら壊した。


「課長、ありがとうございます。その……色々と」
 
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