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いじっぱりなシークレットムーン
第12章 Fighting Moon

あたしは、OSHIZUKIビルディングの噂を思い出す。
確か、各会社に監視役がいるという下りがあった。
でも専務が、そんな者はいないと否定していなかったっけ?
「彼らを公に呼び出し、発言させませんか。朱羽を次期当主にというのか、それとも今居る会社にと言うのか」
待って……。
監視役は今残るメンバーの中にいるの?
今のメンバーは、朱羽を助けようと声を揃えた人達だよ?
それが当主のスパイとして来ていたってこと?
当主のスパイということは、当主に不利な発言はしないよね?
朱羽は、一介の企業で燻るような器ではないこと、皆がわかっている。
その朱羽を、忍月当主がいる前で、財閥ではなく中小企業に留まる方がいいなんて、発言出来る?
「いかがでしょう。彼らに事前打ち合わせなしに呼び出し、このメンバーの中で発言させる。皆さんが証拠です」
「ちょっと、待って下さい、専務。そんなこと……」
専務はあたしを見た。
「自信がないんですか? 朱羽に相応しいのがあなたの会社だという」
「それは……」
「その監視役の返答で、あなたの発言が客観性を持つ。あなたは私情もあるだろうが、客観性を持って朱羽を連れ戻しにきたのだと」
「……っ」
「いかがですか、当主、美幸さん。そして真下さん、陽菜さん。まずその客観性を持たないと、陽菜さんが衣里さんの代理として、本家に来ることは難しい。まず、そこをクリアに願いたい」
衣里があたしを見た。
瞳が揺れている。
「つまり。ふたりいる監視役がどちらとも朱羽が会社にいるべきだと発言しないかぎり、幾ら衣里さんの代理とはいえ、陽菜さんを本家には入れない。監視役意見次第で、陽菜さん……あなたには朱羽を諦めて貰うことになる」
朱羽と目が合った。
朱羽がなにかを言おうとするのを、専務が止めている。
専務は断行する気だ。
どうしよう。
だけど監視役をクリア出来れば、堂々と本家にいける。
朱羽の居る本家で説得が出来る。
朱羽を連れ戻せるかもしれない。
「いかがですか、陽菜さん」
……専務が勝算のないことを言うはずがない。
専務はいつだって、朱羽の味方だ。
ならば――。
「お受けいたします、専務」
専務が満足げに微笑んだ気がした。

