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いじっぱりなシークレットムーン
第12章 Fighting Moon

~Wataru Side~
額から血を流しながらも、完璧な正座とお辞儀で叫ぶカバの気概は、確かに場を圧していた。
ジジイとババアを罵倒するのではなく、朱羽や俺を一般的な孫として、人情論での再考を当主に訴えたカバに、あの押しても引いても決して動くことのねぇ頑固ジジイが揺らいだ時……、俺は朱羽の相手がカバでよかったと心から思った。
カバにあるのは、ガッツだけではない。
困難を打ち勝とうとする強い意志と、弱者に見せる慈愛の心。
それはカバ自身が培ってきた、カバが恥とする過去に起因し、そうした過去があるからカバは、いつでも全力で情に訴えることができる。
一見、なんの力も持たないような小娘が、俺だけではなく、あのやじまグループの総帥と名取川文乃まで味方につけた。
――宮坂さん。私、鹿沼さんを養女にしようと思っています。
――それ、私の案じゃない。なに奪うのよ、文乃。
――あなたより私の方が、当主……いえあの寡婦の対抗策となる。ヤジマはそれが出来ない。力を振るえる場所が違うの。
……俺は驚いたよ、カバ。
お前、一気に大出世じゃねぇか。
名取川文乃に、どうしてそこまで気に入られたよ。
カバは、まだまだ未熟な分原石で、磨かれていないゆえに差し伸べられる多くの手がある。
特別になにかに秀でたわけでもない。特別に美人であるわけでもない。
そこらへんにいる、ちょっと可愛い……和み系のOLにしか過ぎない。
だけどカバは無意識にも、誰かの心の痛みに一番近いところに立つ。
だからこその共鳴、だからこその共振。
I am for you, you are for me.
……それがカバの底力となる。

