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いじっぱりなシークレットムーン
第12章 Fighting Moon
 


「専務、よかったんでしょうか」

 衣里が悔いの残る顔をして聞いてくる。

「陽菜に、試練を与えただけでは……」

「いいや、お前はよくやってくれたさ。お前がいなければ、朱羽の見合いは決定していただろう。お前のおかげだ」

 衣里の両親は名取川文乃と話している。

「お前が真下家に守られている限り、お前の行動にジジイもババアも口出しは出来ねぇ。名取川にいるカバに、会いに行ってやってくれ。おそらく名取川さんも、お前の両親にそう頼んでいるとは思うが」

「はい、そのつもりです」

「衣里。これは俺の借りだ。俺も名取川さんも真下家にフォローは入れて、今度はお前が政略結婚させられないようにする。そこは信じてくれ」

「ふふ、わかりました。頼りにしてます」

 日本きっての令嬢であり、着物も礼儀作法も生活の一部として生まれ育った衣里は、シークレットムーンやり手の営業の顔をして笑った。

「でもね、専務。政略結婚させられてもいいです、私」

「衣里!」

「なにも出来なかった私が、恨んでばかりいた私の鳥籠が、大事な友達とその恋人を助ける手立てになるのなら」

「………」

「私にも出来るということを知りました。ようやく私は、過去の……真下の呪縛から、逃げるのではなく自分の意志で向き合えるような……そんな気がしているんです。今の私を親に見せれただけでも私、晴れやかな気分なんですよ」

「衣里……」

「だから専務は、香月と陽菜のことを優先させて下さい。仮に私がまた鳥籠に囚われようとも、見捨てて下さい」

「見捨てねぇよ、衣里。俺が見捨てても、他の奴らが見捨てねぇ。だろ? カバが結城が、黙っているかよ。月代さんも点滴つけて出てくるぞ?」

「ははは。社長もそんな元気になれば嬉しいですけど。ふふふ、そうですね。私の同期の結束は固いから、乗り込んできそうです」

 衣里。

 昔と今のお前は違うんだ。

 月代さんに依存していたお前はもういない。

 今のお前には、横に並んで歩き出せる仲間がいるんだ。

 だから、必ず戻ってこい。戻れるようにしてやる。
 
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