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いじっぱりなシークレットムーン
第12章 Fighting Moon
五分前になった。
「朱羽! そろそろだ」
「はい」
すると朱羽は、惜別の情を顔に出してくると思いきや、晴れ晴れとした顔で、爽やかに歩いてきた。
「なんだよ、お前。すっきりした顔で。まさか諦めたとか?」
すると朱羽が吹き出した。
「その逆です。絶対、俺は陽菜を手に入れる。それを再確認したら、やる気が出てきました」
俺の弟はなんて好戦的なんだ。
「これを乗り越えれば、俺は陽菜とずっと一緒に生きていけるんだから。だからさっさとクリアして、勝った暁には一週間、陽菜を抱き潰させて下さいね」
「おいおい、俺だって一週間はしたことねぇぞ」
「ははははは」
カバがなにかしたのか。
朱羽を強くさせたのは、どんな魔法を使ったんだカバ。
カバは、聖母の如く慈愛深い表情で立っていた。
すべての感情を超越したような……こりゃあ聖母にまで高みに上ったなら、カバなんて気軽に言えなくなってしまうじゃねぇか。
朱羽は、名取川文乃、真下家の面々に頭を下げた。
「衣里さん、ありがとう。そして真下家のご当主、夫人。この度はこのようなお見苦しい形をお見せしてしまい、本当に申し訳ありません。名取川さん、陽菜に力を下さってありがとうございます」
最後を挨拶にしたのは、朱羽なりの誠意か。
「俺は、陽菜を愛してます。陽菜と寄り添って生きるために、当主にわかって頂くつもりです。茶番に巻き込んでしまい、本当に申し訳ありませんが、必ず俺が決着をつけますので、それまで静観を願えませんでしょうか」
「朱羽くん……」
真下当主が、なんとも複雑な顔を夫人と見合わせた。
「衣里さんは、俺と同じ会社に勤めています。既におわかりかと思いますが、俺達は衣里さんの素晴らしい機転と観察力洞察力で、何度も助けられて来ました。彼女は会社の中枢にいなければならない存在です」
「なにも言えなかった、あの衣里が……」
夫人が衣里を見た。
「月代雅さんをご存知ですよね」
当主は頷く。
「彼は実に多くの人間の、孤独で傷ついた心を救ってくれました。ここにいる渉さんも衣里さんもそう。シークレットムーンを与えてくれた彼によって、俺も陽菜も、多くの社員が助けられました。シークレットムーンは、俺達が帰りたい家なんです」
朱羽……。