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いじっぱりなシークレットムーン
第4章 Secret Crush Moon
 


 そう、まずそれを最初に言うべきだったのだ。

 まあそのつもりで手を引いたんだけれど、見事に脱線してしまって。


「別にあなたに謝ってもらうことはなにもしていませんが」

「プリン! 課長があんなマニアックなものをご存じとは! あたしあれ、大好きなんです!」

「……そっちですか」


 そんなに嫌そうな顔しないでよ、本当にあのプリンは美味しかったんだから。あたし大好きなんだってば。

「それに、バルガーは至る所にあるわけではないんです。それなのに、わざわざ買ってきて下さり……、そして心配して下さるそのお気持ちを踏みにじってしまい、すみませんでした」


 昨夜、あたしが具合悪くなったのは真実だ。

 満月という起因があるとはいえ、家に帰ったわけではない。結城とセックスして、堂々と朝帰りをした。しかもホテルに入る証拠写真まで、社内に広まっているのだ。

 
 この謝罪で地雷を踏んだのは自覚している。

 罵られても仕方がない。


 そう思えど課長の声は聞こえず、だからあたしは頭を下げたまま謝罪を続けた。


「それと今朝……、定例会からずっと庇って下さり、ありがとうございました。今もそうですよね」

「あなたは……」


 言葉が不自然に途切れたから、なんだろうと顔を上げれぱ、課長は不思議そうな顔をしてあたしを見ていた。


「あなたは、私があのメールを皆に送ったとは思っていないんですか?」

「はい」

「なぜ?」


 眼鏡の奥の切れ長の目が、訝しげに細められた。


 あ、平然としているけれど、目にクマが出来ている。

 髪も艶やかさが翳っている気がする。


 そうだものね。

 夜通しうちの前で、あたしを待っていてくれたんだものね。
 
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