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いじっぱりなシークレットムーン
第13章 Final Moon
「……誰もがうらやむ財閥の当主の地位になることで、朱羽は幸せになれないとでも言うのか」
それは、意識的に鎮められた声だった。
「ご当主は、名取川さんと別れて忍月の当主の地位にいて、幸せでしたか?」
朱羽で鍛えられた、質問返し。
「もしも、名取川さんと家を忘れて結ばれたら、どれだけ充実していた毎日だったのかと、一度も考えられたことはありませんか?」
当主は……言葉を出さなかった。
「朱羽はあたしにとっても、会社にとっても必要なんです。ひとりだった朱羽にも友達が出来たんです。仲間が出来て、信用されて信用して。朱羽のあの嬉しそうな顔を、お祖父様にまず、見せてあげたい」
「………」
「朱羽もお祖父様も納得出来る、その道を見つけて下さい」
「見つかると、思うのか」
「見つかります!! だって血が繋がっているんですから!」
あたしは顔を上げた。
「家族を喪ったあたしには、もうどんなに会いたくても、実の家族に会えません。朱羽だって母親を亡くして、お祖父様だけなんです。専務だってそうです。心に傷を抱えているんです。傷は力で屈服出来ないんです。それをどうかおわかり下さい!」
当主は目をそらした。
「出来ないのではなく、出来るように努力して下さい。相手の意見も考慮して下さい。そうしたら朱羽や専務だって、妥協案を考えるはずです。忍月財閥に背を向けるのではなく、迎合する道も開かれるんです!」
あたしは、訴え続けた。
当主はあたしを罵らなかった。
あたしの言葉のどんな要素が彼の心の琴線に触れたのかよくわからないが、彼は唐突にこう言った。
「お前、美幸を納得させられる自信があるか?」
「え?」
「美幸を理解できるか?」
朱羽と専務の母親を殺した女など、理解もしたくないけれど。
「朱羽と専務の幸せのために必要であるのなら」
すると当主は立ち上がった。