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いじっぱりなシークレットムーン
第13章 Final Moon
「まず明日。監視役が朱羽を認めたら、また改める。朱羽がそこまで会社にもお前にも必要なのか」
「はい」
「厳しいことは言っているがね、陽菜さん」
「はい?」
「この年になると、色々と思うところもあるのだ。どうしてワシには家族がいないのかと。ワシがなにをしたと。……思い当たるのがたくさんすぎて、考えがまとまらぬ」
当主は笑った。
「当主のワシには、陽菜さんは鬼門だ。だが、朱羽達の祖父としては、心動かされる部分があるのだと、それだけは言っておこう」
「ありがとうございます!!」
「なにがともあれ、美幸だ。あの女を追い出すことが出来ないワシとしては、一番厄介な種。陽菜さんがなんとかしてくれるのなら、話し合いの席に着こうじゃないか」
「はい!!」
「ワシはね、傷を持つものが悪いとは言わない。だが、傷を持つことでへんに身構えたり、おかしく偏ったりする者を多くみてきたから、そこを懸念する。ワシ自身がそうじゃった。文乃と別れた後、壊れていったから……。文乃を愛する代わりに、家だけを愛してきたから」
名取川文乃は、じっと当主の後ろ姿を見ている。
「あの時のワシが一番、幸せだったことを……思い出した」
彼女は見えない。
厳格で非情な彼の目から落ちた涙を。
「ではまた明日。帰るぞ、もう君もいいから。吾川くん」
「はい。ではお世話になりました」
当主は、沙紀さんを連れて帰っていく。
もう外部に連絡取ろうとしようがどうでもいいということなんだろう。
もしかすると、その結末を当主は既に見越しているのか。
当主の言うとおりに、監視役ふたりが頷くか。
それともあたし達の味方になるのか。
結果はひとつしかない。
入って来た時とはまるで違う、当主の小さく丸まった背中。
そこには哀愁が漂っていて、なんだか孫に拒まれる現況が気の毒にも思えたのだった。