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いじっぱりなシークレットムーン
第13章 Final Moon
 

 朱羽のためなどといいながら、兄のくせに朱羽を助けてやれず、自分勝手な幸福だけを願うこの俺が、忍月の血特有の……狡猾で性悪な男だ。

 それを誰もがわかっていながら、朱羽の手助けを望み、俺を慕って俺を信用してくれるのが、正直心苦しいほどに。

 俺はなにも犠牲を出さずにいていいのか。

 朱羽とカバだけに苦しみを与えて、それで本当にいいのか。

 そう思っていた俺に、沙紀が泣きながら言った。

――私は、温室の花じゃない。陽菜ちゃんと同じ、踏みつけられてもなにをされても、愛する男を取り戻すためなら強くなれる。渉が傷ついているのを、私黙って見ていられない。

――渉は、朱羽くんを救うために渉しか出来ない方法があるでしょう。朱羽くんらは本家のことを知らないの。渉しかわからない。考えて。誰にも恐れられるその頭脳で、未来を読んで。私は、どの位置に居ればいい?

 俺もまた、女は弱いものだと男が守らないといけないものという、そんな固定観念に囚われていたのかもしれない。

 俺は、男として先に沙紀を忍月にやった。

 特にババアに気に入られろと。

 ババアはすぐ、身体の奉仕を求めてくるだろう。それを乗り切れと。

 沙紀から意気揚々としたLINEが来た。

 "寝技は私の得意技! クソババアは失神して朝までぐっすり(笑)"

 柔道も空手も、とにかく武闘の種目は有段者の沙紀に、生温い環境で欲にまみれたババアが敵うはずがない。

 その上に、沙紀は寝ているババアの耳元にずっと囁いていたそうだ。

 "「私は吾川さんの激しすぎるセックスに、体力が持ちません」"

 3日後あたりから、ババアに言われたそうだ。

――あなたのテクニック、素敵。また夜、部屋に来て。

 ……すまん、カバ。お前の催眠療法とやらの応用だ。

 そのうちババアは、沙紀を見ただけで身体を濡らし始めるかもしれねぇな。人間の記憶や思い込みって、厄介なものだ。

 まあ沙紀になにかあれば飛んで行くつもりだったが、もともと沙紀はタフだ。しかも劣等感のカタマリ。さらには沙紀をものにするまで、俺が職権乱用して散々セクハラパワハラをしてやったから、なにを言われても動じない。

 沙紀は給仕達の人気者になってしまったようだ。

 俺の沙紀なのによ……。
 
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