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いじっぱりなシークレットムーン
第13章 Final Moon
 


 沙紀は、閉めたドアを嫌そうに指さす。

 誰かがいると言っているのだろう。


「ああ、俺は長男の渉、こいつは四男の朱羽。よろしくな」

「よろしくお願いします、吾川さん」


 沙紀は笑いながら、ポケットから封筒を取り出し、朱羽に渡した。


『朱羽へ』
 

 カバからの手紙だとわかった途端の朱羽の顔!

 カバに骨抜きだ、俺もひとのこと言えねぇけどよ。


「では、なにかございましたら、お申し付け下さいませ」

「え、行っちまうの?」

 
 久しぶりに会えたのにつれない沙紀。割と本気でそう言うと、沙紀は唇に立てた人差し指をボンボンと、唇に叩いて見せた。

 それは誘惑にしか見えねぇよ。

 だから俺は、その指を外して代わりに俺の唇を押しつける。

 ああ、こんなおとなしいのは駄目だ。

 もっともっと、いつものどでかい奴を。


「――っ!! ――っ!!!」


 慌てる沙紀が可愛くて、念入りに愛を込めてやる。


 コンコンコン。


『吾川さん? ご挨拶はおすみかしら?』
 

 これはクソババアの声だ。

 おいこら、朱羽。

 頭から花咲かせてねぇで、フォローしろよ!

 足で朱羽の臑を蹴り飛ばすと、封筒を開けようとしていた朱羽は状況に気づいたようだ。

 俺は沙紀に口づけたまま、うるせぇババアをおとなしくさせろと目で指示をする。

 朱羽は今にも開きそうなドアに慌てて背をつけ、開かないように踏ん張っている。

「おっと、渉さん! 歓迎のプロレス技をかけないで下さい。ドアが、ドアが」

 足でドアを蹴り飛ばす朱羽。

 歓迎のプロレス技ってなんだよと思いつつ、深いキスを堪能した俺。

『なにをなさってるの?』

「技です技! 渉さん、プロレス大好きなんです! ああ、危ない!」

 ひときわ大きく、ガツンと足で蹴り飛ばした。

『渉さん、渉さん! おやめなさい。渉さん!?』

「渉さん、早く!!」

 あのクソババア、どれだけの力で俺の沙紀を奪うつもりよ。

 そう思ったら、ぜぇぜぇと肩で息をする沙紀が、にっこり笑った。

 そして――。


「殺す気かっ、ボケッ!!」


 俺が投げ飛ばされた時、ドアが開いた。


「……吾川さん、大丈夫?」

「大丈夫です。私、激しいので!」


 ぽっとするクソババアに、俺は笑いたいのを必死で堪えた。
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