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いじっぱりなシークレットムーン
第4章 Secret Crush Moon

「そうか。黙ってらしたのは……、結城をも庇ってくれたのでは?」
犯人が三橋さんだとしたら、あたしを恨んでいる理由は、ただひとつだろう。
あたしと結城ができていると思っているから。
結城にフラれたのは、あたしが原因だと思っているから。
課長が下手に口を出せば、今度は結城に害が及ぶと。
課長は静かに言った。
「……恐らくは、単独犯ではないと思います。サーバーから直にメールアドレスを作れるのは、知識がないと駄目だ」
他人のメールアドレスを使うためには、設定画面をそのひとのものに書き換えるか、新たにメールアドレスを作って、ID・パスワードを自分で設定すればいい。
三橋さんと共謀している社員がいるのか。
「私が2階に居たから、実際のところ1階に誰がいたのかはわからない。さらにサーバー室に誰がいたのかも。だから三橋さんが首謀者だと言い切れる証拠がないんです。共謀者が自白しない限り」
……すべて意図的だと言うのだろうか。
「ただ、その時間帯には、結城さんがもう来ていた。彼は彼で思うところがあって動いているはずだ」
ふたりが否定も肯定もしないのは。
「課長。多分、杏奈が知っています」
「………」
「課長は、結城のことを脅すなりなんなり出来る立場にいました。それなのに、すべてを黙して結城も庇って下さったことに感謝します」
「………」
「だけど、その理由がよくわかりません」
結城を庇う必要もないのだ。
そこまでの親しい間柄でもないし、今朝なんて険悪だったのだから。
「利がないからです」
課長は言った。
「結城さんが困れば、あなたも困るのでしょう? ならばなにひとつ私には利がない」
そうやるせなさそうに笑った課長の顔に、あたしは言葉が詰まった。無性に、泣きたくなる心地を抑えながら、
「まあだけど、私を犯人にしたツケはそれ以上で支払って貰います。というか、正直皆さんの反応にも腹正しい。私のアドレスじゃないと誰か突っ込む方はいないんですかね? 私はすぐ、総務通さずメールサーバーに直接追加したものだと気づいたのに。大体、この手を見て、そそくさと作業出来そうに思えますかね?」
多分わざとだろう、ぷりぷり怒る課長の言葉に、あたしは潤んだ目を誤魔化すように笑ってしまった。

