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いじっぱりなシークレットムーン
第4章 Secret Crush Moon
 

 ***



「それでは、説明を始めます」


 香月課長の、物静かな声が響き渡る。



 社内で一番大きなA会議室――。

 楕円状に机と椅子が並べられ、社長を始め、ひとりの欠席もなく座っている参加社員は、皆昨日の飲み会にいた面々であり、勿論結城も衣里もいるが、この中には2階にいる三橋さんら秘書課メンバーだけはいない。

 あたしは課長の補佐のような形で、ノートパソコンと繋がっているプロジェクターが映す大きなスクリーンを使って、泰然と説明している課長の横、部屋の角に立っている。

 プロジェクター用のデータだの、全社員に配られた資料だの、いつ課長が作ったのかさっぱりわからない。

 あたしが知る限り課長は、日中は打ち合わせだのして席にはほとんどんいなかったのに。

 もしやあれか、バチバチキーボードを叩いていた時か?

 でもあれ、二日目の朝じゃない?


 いつそれを思いついて動き出したのかわからなければ、あくまで自分だけで進めるそのやり方にため息が出る。


――堂々としていて下さい。


 課長は始まる直前そう言った。


――もし私や結城さんに悪いと思うのなら、私がやることに異議を唱えないで下さい。


 課長はなにかしようとしているのだろうか。
 

 メールアドレスというものは、全世界にひとつしか使えない。

 つまり、課長が総務に届け、既にメールサーバに登録してある、hがある方のsyu-koh zukiのメールアドレスを使う場合には、使用者である課長が設定したIDパスワードを知らねばならない。

 だが、メールサーバに直接、それまでに登録されてないsyu-kozukiをひっそりと新規に作るのなら、その者がその際に定めたIDパスワードがあれば用は足りる。

 課長の使用しているIDパスワードは必要なく、一字違いの別のアカウントが作られたと見なされるのだ。

 紛らわしいメルアドでの、完全な偽装工作をされたんだ。あたしだってそんなことをされたら、仕返しをしてやりたくなるが。


「……?」


 ふと視線を感じたら結城だった。


 目が合うとにっと笑われたが、結城の顔が疲れている。

 そりゃそうだ。朝方まで体力勝負のセックスをしていて、睡眠時間は二時間あるかどうか。ほぼ仮眠の状況で、多くの社員の奇異の目に耐えていたんだから。
 
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