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いじっぱりなシークレットムーン
第13章 Final Moon
 

「お願いします。シークレットムーンに朱羽を下さい」

 あたしも結城の横で頭を下げると、あたしの横に衣里も並んだ。

「申し訳ありません、当主。私は真下家の長女でありながら、私もシークレットムーンに働いております」

 当主の目が見開いた。

「朱羽さんを私も失いたくない。その一念で、参りました。私も月代が作った会社を守りたい。朱羽さんによって会社は変わります。朱羽さんとうちの新社長がタッグを組む新しい会社に、私達は働きたい」

 結城も頭を下げた。

「香月を、シークレットムーンに下さい。シークレットムーンにはいなくてはいけない存在なんです!」

 追従するように、脇に立つ社員一同頭を下げた。

 車椅子の会長が、タイヤを転がしながら当主の前にやってくる。

「ご当主。香月くんの可能性を、私達に預けて貰えませんか」

 倒れる前の元気な姿を彷彿させる笑み。 

「これだけ愛される社員もいませんよ、ご当主。彼はよく頑張ってくれています。うちのブレーン的存在です。抜けられると、困るんです。私も」


「「「お願いします!! 課長と働かせて下さい!!」」」

 全員が訴える。

 朱羽が必要だと。
 どうしても渡したくないと。

 朱羽、聞いてる?

 あなたは短期間でここまでの人達の心に住み着いた。

 いなければならない、重要な存在なの。

 
 朱羽の横顔が見えた。

 彼は静かに目を伏せ、瞼と唇を震撼させていた。

 あたしは耐えきれず朱羽の横に行き、朱羽の身体を横から抱きしめた。

 朱羽があたしの手の上に彼の手を重ね、ぎゅっと力を入れてきた。


 目があうと、あたしの目から涙が静かに零れた。


 あたしも朱羽が必要なの。

 どうかお願い。

 朱羽とずっと一緒にいさせて下さい。



「あははははは」


 笑ったのは美幸夫人だった。


「失礼。くくく、あはははは」


「なにがおかしいんですか!」

 あたしは怒りを含ませて言った。

「そこにいるのは全員なの?」

「そうですけど」

「では、監視役の二人目、出てきなさい」

 美幸夫人の言葉に、場はざわつき、皆が顔を見合わせた。
 
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