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いじっぱりなシークレットムーン
第13章 Final Moon
「渉」
「はい」
「これを読み上げろ」
ひと通り目を通した手紙を、専務が受け取った。
固唾を呑んで見守るあたし達――。
「『私、向島千絵は……香月朱羽さんはシークレットムーンになくてはならない、必要不可欠な存在だと断言いたします』」
あたし達は顔を見合わせ、わあっと歓声を上げた。
「『香月さんがきてシークレットムーンは、月代会長が仰るとおりの化学変化が起きました。彼はどんなトラブルも柔軟にカバーでき、その能力は未知数。特に営業に秀でた結城社長と頭脳派である香月朱羽さんがタッグを組み、そこに真下さんや鹿沼主任、木島さん、三上さんを中心に社員が一丸になれば、シークレットムーンはこの先、面白いほどの成長を見せるでしょう。シークレットムーンとその仲間で、香月さんの能力はさらに伸びて鍛えられることを、ここに記します』」
それまで刺々しい言葉を吐いていた千絵ちゃんに抱きつき、皆で泣きながら頭をぐしゃぐしゃにした。
千絵ちゃんは泣いていた。
今まで皆の前で泣かなかった分、大きな声をたてて「今まで本当にごめんなさい」と大きな声で吠えるようにして謝り、その場で崩れ落ちた。
あたしと衣里と杏奈は泣きながら、千絵ちゃんを抱きしめた。
男性陣も鼻を啜っていた。
「ありえない!!」
机を叩いて立ち上がったのは美幸夫人。
「そんなこと!!」
「ありえるんです、奥様。こちら、私の兄からの"お返事"です」
涙で化粧をぐしゃぐしゃにさせた千絵ちゃんは、もう一通の手紙を美幸夫人に渡そうとしたが、当主がこれも専務に読み上げろと言ったため、専務が再びそれを受け取った。
「『忍月美幸様
先日はお電話頂き、ありがとうございました。
ご依頼頂いた件、美幸さんに有利な証言をさせれば、今後向島に有利に忍月が動いて下さるというお話は、謹んで辞退申し上げます。
忍月と向島の間の確執の緩和は、美幸さんではなく、渉くんとの間で話を進めていきたいと思います。むしろ私は、渉くん以外の人物とは話の場につきません』」
向島専務……。
彼が融解したのは誰のおかげなのだろう。
朱羽と杏奈と宮坂専務と。