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いじっぱりなシークレットムーン
第13章 Final Moon
***
当主は、応接室に座っていた。
重厚な雰囲気のその空間は、よくドラマに出てくる華族の部屋のよう。
恐らくは名だたる欧州の逸品なのだろう。
繊細な細工が家具に施されている。
大きな大理石のテーブルの向こう側に当主が、そして側面に専務が、あたしと朱羽は当主の真向かいに、ふたりで光沢のあるソファに座っている。
「約束は約束だ。君が本家に入ることは認めよう」
「ありがとうございます」
「こうなってしまっては真下家との縁談は続くまい。美幸のスキャンダルを君が掴まなくても」
「………」
「美幸は自室に色々なものを隠し持っているから、叩かず見渡すだけでも恐らくは、忍月にとって不利なスキャンダルの証拠が出てくる。それで陽菜さんはどうしたいんだ。スキャンダルをマスコミに売るのか? しかし忍月はそんな世論で倒れるものではない」
「答える前に、ひとつお聞きします。ご当主は、美幸夫人のなんらかの不正を知りながら、なぜなにもせずにいたのですか? 早くに芽をなぜ摘み取ろうとはしなかったんでしょう」
「………」
「美幸夫人に、なにか脅されているんですか?」
目を背けた当主。老人特有の濁ったその目には、微かな動揺があった。
「それが解決すれば、ご当主は美幸夫人をどうしたいのです?」
「……っ」
「美幸夫人に抱いている感情は、怨恨ですか? 愛情ですか? それとも哀れみですか?」
「なぜそんなことを聞く」
「それにより、あたしの行動が変わるからです」
「なに?」
「あたしは、ご当主を追い詰めるためにここに来たのではありません」
「は……。ワシから朱羽を取り上げようとして、なにを言う」
「あたしが望んでいるのは、忍月を普通の家にして貰いたいんです。殺意や不信感にまみれた家ではなく、朱羽と専務が好きになるような、そんな家に。……あたしは美幸夫人が朱羽や専務にしてきたことを知っています。それに対してご当主がなにもなされなかったこと。朱羽をも見殺しにしたこと。それも存じ上げてます」
「……っ」