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いじっぱりなシークレットムーン
第13章 Final Moon
「どうか、話合いをして下さい。あたしは、一方的に弾劾して忍月財閥を解体させようとか、そんな気持ちはありません。だって、ふたりの実家なんですから。ご当主の孫なんですから。冷え切った関係ではなく、必ず一筋でも光があるはずです。それを見失いたくない」
朱羽と専務が考え込んだのがわかった。
「あたしも理解したい。お祖父様にも、ひととしての優しい心があるということを。そしてあたしは、美幸夫人にもお話をお伺いしたいと思います。恐らく彼女は、同性で同じ"下民出"であるあたししか、理解出来ないと思いますので」
ここから見る当主は、やけに年老いて見えた。
「朱羽も専務も、まず心をお祖父様に見せて下さい。なぜ継ぐのが嫌なのか、どんな心を抱えているのか。専務、いかがですか?」
専務は当主に向き直った。
「俺の心には、美幸さんが母を生きながら焼き殺したあの残像があります」
生きながら、焼き殺した……。
「美幸さんは笑い、そしてあなたと亡き父はそれを見て見ぬふりをした。それは俺の心の深い傷です。なぜ、美幸さんを怒らなかったのですか? 愛人であるのなら、正妻はなにをしてもいいのですか!?」
専務の怒気を帯びた声に、胸を突かれる。
「……すまなかった……」
当主は言った。
「誰にすまないと? 助けることが出来なかった無力な俺にですか? 違うでしょう、無念で死んだ母でしょう! 父すら助けなかった忍月に囚われる俺が、恥ずかしくて堪らなかった!」
いつもあたし達を引っ張り上げてくれた、専務の真情。
「俺が美幸さんを抱いていたのを、あなたも父も知っていた。俺が喜んであのひとを抱いていたと思いますか!? 俺が生きるために母の敵を抱かないといけなかったその気持ち、誰がわかってくれましたか!?」
専務の目から涙が零れた。
「女が嫌いでした。それでも吐きそうになりながら、たくさんの女を抱いていました。あなた達に弱みとして見せたくなかったから。余裕だと、親を殺されても弱ってなどいないと見せたかったから。強くないと、あなた達に殺されるから!」
朱羽の目からも涙が零れた。