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いじっぱりなシークレットムーン
第13章 Final Moon
「だけど父にひとつ感謝したいことは、俺に弟がいたということ。俺と同じ傷と悲しみを、朱羽達が持っていたということ。それで俺は、ひとりではないと思えました。たとえ傷の舐めあいと言われても」
「それは俺も同じです、渉さん。どうしようもない母がいて、それでも俺がなんとかしなくちゃいけなくて、そのストレスに心臓発作で死に目にあったのを、渉さんが助けてくれた。母が殺されたとしても、祖父に殺されそうになったとしても、俺には渉さんがいて、ひとりではなかった」
朱羽は当主を見た。
「俺は忍月が嫌いです。俺と渉さんの母を殺した美幸夫人が嫌いです。それを黙認して、都合のいい時だけ俺を必要とするあなたが嫌いです。だけどあなたは、渉さんを育ててくれていた。殺さないでいてくれていた。渉さんが居て、忍月があったから陽菜を引き寄せて貰えた。それだけで俺は……あなたを許せそうな気がするんです」
「朱羽……」
「俺は彼女が好きです。彼女が俺の未来を作ってくれた。彼女と共に居たい。彼女と離れたくない。彼女以外と結婚したくない!!」
朱羽はあたしの手を握りしめて頭を下げた。
「彼女を諦めろというのなら、今ここで俺を殺して下さいっ!!」
あたしの手が震えた。
「あたしも覚悟ができています。命をかけて、朱羽を愛してます! あたしは、身分差で諦めたくない。あなたと名取川さんのように別々の人生を歩みたくないんです!」
当主はなにも言わなかった。
「当主。俺にも、そういう女がいます」
専務が言った。
「母が死んだ記憶を上書きする、愛する女がいます」
「渉……」
「殺されたくなかった。俺は隠し続けようとしたけれど、だけど朱羽とカ……陽菜を見て、俺も言いたくなった。……沙紀っ!」
専務が声を上げた。
「沙紀、いるんだろ!? 俺の女として、出てこいっ!」
ドアが静かに開き、男装の沙紀さんが出てきた。
「え、吾川……」
沙紀さんは専務の隣に行って、頭を下げた。
「私は女です。前に一度お会いしました、専務の……渉の秘書をしており、……渉と、おつきあいさせて頂いています」
沙紀さんの目は強かった。