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いじっぱりなシークレットムーン
第13章 Final Moon
「渉からすべて聞いた上で、私は渉と同じ道を進みたいと思いました。この度朱羽くんと陽菜ちゃんが引き離されそうで、私と渉はこちら側から補佐しようと、男装をさせて頂きました」
どこまでも、強い女に見える。
「私は、渉を愛しています。渉と離れません。なにがあろうと」
「……はぁ」
当主は俯いてため息をついた。
「どいつもこい……ゲホゲホッ」
しばし咳が続く。
「この年になり、ワシは孤独感に苛まれた。誰もかれもがワシの肩書きだけを欲し、ワシの心は錆び付いていることに気づいた。結城くんの話を聞いて、羨ましかった。ワシも若返れたらと思った」
そこには威厳もなにもない、
「せめてワシが作ったものだけでも、ワシの血が連なる者に継いで貰えたらと思った。最高の縁談で、華々しく当主の座を譲り渡したいと。渉には早々に嫌がられ、そして朱羽達からも拒まれた。しかし後継争いをすると聞いて、ワシの心は躍った。継いでくれようという者が必ず出ると。ワシのように忍月を愛し、大きくしてくれる者が出ると」
しわくちゃな老人がいた。
「だがそれまでワシの身体が持たぬ。それで後継争いを切り上げた途端、こうだ。誰もがワシの忍月を継ぐことが幸せではないという。誰もが忍月当主の嫁に相応しい良家の娘ではなく、愛する者と結ばれたいという。……愛する者と結ばれる忍月であれば、ワシは……文乃と結ばれておったわ」
ぽつり、ぽつりと……それは愚痴のように。
「ワシが生きた証はなんだったのかの? 愛する者と結ばれず、心を無くし、その結果身内からは背を向けられ。忍月を優先して、忍月を第一にと考えてワシがしてきたことは一体なんだったのかの?」
それは老人の心の吐露。
「ワシがしてきたことは、すべて無駄だったのかの?」
涙が流れた。
「……無駄で終わらせたくないと思うのが、身内でしょう」
そう言ったのは専務。
「悲しいことに、どんなに酷い仕打ちをされても、血の絆は断ち切れないようです。な、朱羽」
「……はい」
ふたりはなにを言い出したのだろう。
「俺があなたの意志を継ぎ、そして朱羽が俺の意志を継ぐ。それでいいですか」
「渉……っ」
当主は歓喜と怪訝の中間の表情をした。
「ただし、条件があります」
専務は朱羽と顔を見合わせて、ふたりでにやりと笑った。