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いじっぱりなシークレットムーン
第13章 Final Moon
涙目で怒っていた騒々しい人物がいなくなり、部屋の中が静まる。
「沙紀さんね、秘書やってるから勉強して、語学は堪能なんだ」
「へぇぇぇ。凄いね」
純粋に驚いた。
美幸夫人曰く、沙紀さんもあたしと同じ"下民"出ながら、教養はきちんとついている。
「……ということで」
朱羽は身体をあたしの方に向けた。
「陽菜は、まず英語をマスターしようね」
眼鏡をかけた顔が冷ややかだ。
「いや、でも、その……」
専務と沙紀さんはわかる。
ふたりは結婚するだろうことは、専務だって公言しているし、沙紀さんもちゃんと自覚しているようだ。
だけどあたしと朱羽は……。
深く考えていなかった。
朱羽も忍月財閥当主になるのなら、それこそ身分違いで――。
「皆の前で、あんなに俺を失いたくない、あんなに愛してると言っておいて、逃げる気?」
「に、逃げるわけじゃないけど……」
朱羽はあたしの脇の下に両手を差し込み、またいつものように持ち上げて彼の膝の上にあたしを後ろ向きに乗せ、抱きしめてきた。
着物姿だから、裾がはだけるのが無性に恥ずかしい。
「恥じらうあなたも可愛いけれど、俺達はもっと恥ずかしいことしてるから。いまさらだ」
「……っ」
首を擽る朱羽の息が熱い。
髪をまとめ上げているから、余計に朱羽の熱を感じる。
「渉さんの言ったこと、意味わかった?」
どきっとした。
「……うん、一応は……」
朱羽と結婚する――。
その位置に在るのだと思い知らされた。
朱羽と結婚……、身分違いとなった恋愛がそんな形となると思ったら、すごくドキドキして胸が苦しくなった。
愛するひとと名実ともに一緒にいられる……その方法に心がときめくなんて、あたしも女だったんだ。
だけど、あたしは――。