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いじっぱりなシークレットムーン
第13章 Final Moon
 
 
 いいのかな。
 あたしが朱羽の人生を縛っていいのかな。

 そう思えども、朱羽がこうして言葉に出してくれたことが嬉しくて。

 朱羽とこの先も生きていきたい思いを強めている中で、こうやってそれを現実にするために、あたしを縛ってくれたのが嬉しくて。

 どうしよう、嬉しい。
 正式じゃないとしても、ただの口約束でも嬉しい。

 選り取り見取りの中からあたしを選んでくれたという、幸せな夢を見てもいいのかな。

 人並みの、いや最高の喜びを夢見ても。

 
 ぼたぼたと落ちる涙が止まらない。


「泣くほど……嫌?」

 
 あたしの涙を、悲しげな声を出す朱羽の指が拭ってくれる。

 あたしは頭を横に振って、歓喜に震えて声にならない声で、だけどしっかりと言った。


「よろしく、お願いします」


 こういう時、なんと返事をしていいのかよくわからない。

 
 あたしは泣きながら、朱羽の手をぎゅっと握った。

 伝わって欲しい。
 どうか、あたしのこの感動を。

 反対の手で目を擦り、精一杯の笑顔を見せた。


「朱羽が旦那さまになってくれるの、すごく……嬉しい」


 あたしの返事など予想していただろうに、朱羽は少し大きく見開かせたその目に透明な膜を張らせたままぎゅっと細めたから、雫となって朱羽の目からこぼれ落ちた。

「なんで泣くの……」

 まるであたしの涙が朱羽に伝染したみたい。

 泣きながら朱羽は、微笑んでいた。


「ありがとう」


 あたしと心を繋げた時のように、ふわりと。
 もうなにも憂い事がなくなったかのように。

 それでもまだ、美幸夫人の件が残っている。

 それはわかっているのに、あたし達はその後の幸せを夢見る。
 一番難問だからこそ、その現実を見ないふりをする。
 
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