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いじっぱりなシークレットムーン
第2章 Nostalgic Moon
 


「杏奈ちゃんは可愛いなって、こいつが」

「え、俺そこまでは…」


 木島くんが青ざめた。


「お嫁さん候補になっているみたいよ、こいつの」

「へえええ!?」


 木島くんが変な声を出した。


「きゃ~!! 木島っち、でーとしようね~」

「主任、主任!!」

「じゃ、違う案もよろしく! おっと休憩時間だね、頭をクリアにしてかえってきてね、いってらっしゃい!」


「鹿沼ちゃん、いってきまーす!!」

「主任――っ!!」


 杏奈が、幾多もの賞を総舐めにする凄腕プログラマーでなければ、絶対この会社……、否どこの会社にも居られないだろう。


 会社は風紀より、益をとったらしい。


 まあ確かに、彼女が作るものは素晴らしく、金になる。
 前に彼女が作ったゲームの企画に参加したことがあったけれど、文句なしのものだった。

 なぜあんな格好をしているか不明。


 だれか、突っ込めよ……。


 そう思うけれど、あたしも言い出せない人間のひとりだ。





 ***



 同フロアにある休憩室は、半透明のガラスで出来たパーティーションに仕切られ、簡易テーブルと椅子、自販機が用意されている。その隣には、喫煙室まで用意されている。


「ああ、なんか疲れた。……きゃあ」


 頬に冷たいものがあたってびっくりしていると、それは缶コーヒーを持った焦げ茶のスーツを着た結城だった。タバコの匂いがすることから、奴は喫煙所から出てすぐ缶コーヒーを買ったのか。


「ほら、やる。お前の怒鳴り声と、木島の悲鳴が聞こえていたぞ」

「ありがとう。木島くんが、ピンクのひらひらをWEBデザインにしてきたから。しかもその一点張り。代案を作ろうとしないから、思わず」

 あたしはプルタブを引き上げて、カフェオレ珈琲を飲む。

 あたしは普段ブラックだが、昔から興奮状態の時だけ、甘ったるい珈琲が落ち着くこと、この男はよく知っている。
 
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