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いじっぱりなシークレットムーン
第13章 Final Moon
 

 朱羽は眼鏡を外し、顔を覆うようにした手を滑らせながら、その漆黒の前髪を掻き上げた。

 そして見えるのは、男の欲情を強く宿した茶色い瞳。

 女の本能を煽る、フェロモンに満ちたその切れ長の目で、ゆっくりと……誘うように唇が薄く開く。

 ぞくりとする。

 眼鏡という氷の鎧を外したその顔は、氷を溶かすかのように情熱に溢れ、あたしのすべてを魅惑する。

 身体中から男の艶を滲ませて、どこまでも彼は妖艶な男になる。

「抱きたい」

 朱羽がいないのが寂しかった。
 朱羽の温もりが欲しくて、何度も朱羽の腕時計にキスをした。

 その朱羽が目の前にいて、あたしを求めている――。

 身体の芯が熱を持つ。

 女のあたしが悦んでいる。
 身体の細胞が、彼の熱に溶けたいと打ち震える。

 朱羽の欲情した濃厚の匂いに頭がくらくらする。


 だが、なけなしの理性がストップをかけた。


「っ、ここ朱羽の実家だし……」

「そうらしいね、俺とっては他人の家だけれど」

 朱羽はシャツを脱いで上半身裸になる。

「と、隣は専務の部屋で」

 朱羽は艶然と笑い、脱いだシャツの胸ポケットから銀色の包みを指先で出して見せる。

「渉さんからねじ込まれた。これであなたと心と体をきっちりと繋げろって。あなたを愛することが、あなたへの恩返しだって」

 あたしの顔がカッと赤くなる。
 
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