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いじっぱりなシークレットムーン
第4章 Secret Crush Moon
 


 場がざわめいた。

「でもあの写真、鹿沼主任と結城課長がホテルに入った事実は変わらないよね」

 誰かがぼやくとさらにざわめきが強くなる。


 そうだ。

 今のは、香月課長がメールを送ったわけではないということがわかっただけで、写真の真偽が証明されたわけではない。


「主任はホテルに行ったんですか?」


 ああ、どうしよう。

 皆の目が怖い。


「主任と付き合ってるんですか?」

「セフレ?」


 だけど、結城に頼んだのはあたしだ。

 結城に迷惑かけたくない。


 結城ファンがあたしと結城が恋人であって欲しくないと、切実な目をしているのがわかる。

 皆の目が一斉にあたしに向く。

 結城が立ち上がる。

 その前にあたしは口に出した。


「付き合ってます」


 そう言ったのはあたしではない。


「え?」


 しかも結城でもない。


「私と鹿沼さんは付き合っています」


 それは、香月課長だった。


「ちょっ、課長!!」


 香月課長は、ゆったりとした動きで結城課長に微笑みかけ、あたしの腰を手で引き寄せた。


「今まで、庇って下さってありがとうございます、結城課長。昨日、あなたが、歓迎会の主役であったという理由で、私の代わりにホテルで彼女を寝かせていて下さったおかげで、あの後、よくなった彼女を家まで連れ帰りました」


 ところどころ強調した、嘘八百。

 だけど自信ありげに、だけど艶めかしい目でうっすらと笑って、皆に言う。


「あの写真は、私の朝帰りを撮られたみたいで恥ずかしいですが、なにかご質問は?」


 ああ――。


――もし私や結城さんに悪いと思うのなら、私がやることに異議を唱えないで下さい。


 これだ。このことだ。


「ないようですので、これで説明会を終えます。あとでマニュアル配りますので」


 社長と衣里の笑い声が聞こえ、俯いた結城がふるふる震えたまま固まって動かない……そんな姿が視界に見えた。


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