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いじっぱりなシークレットムーン
第13章 Final Moon
  

 すぐ傍で笑っている使用人達に気づいていながら、それを問い質さずに、それでリーダーと言えるのかどうかも甚だ疑問だけれど、新人の下積みは、特に体育会系ならどこにでもある話だし、そのノリで頑張った。

 ええ、不屈の精神で頑張り抜きましたとも!!

 やがて壷を壊すことに相手の方が疲れたのか、壷は割れなくなったが、今度は色のついた蜂蜜のようなねばねばしたものやら泥水やら、よくこんなもの作ったなと思える汚水をぶち撒かれたけれど、そんなの拭き取って磨けば綺麗になる。

 何度も何度も磨いたせいで、あたしが担当したところは、床と台の光沢が際立った。どうだ、あたしの粘りを見たか!

 敵もやればやるほど綺麗になる現場に気づいたのか、ぱたりと意地悪が止まった。それがわかり「おーほっほっほ!」と高笑いをしていた、この心の中をお見せ出来ないのが残念なほどに。

 どんなに汚されても、あたしを助けて、応援してくれた雑巾に、愛情を込めて"雑巾さん"と呼んだ。

 "ほら、拭き取ってあげるから挫けないで"

 "私、このままあの使用人の顔にぶつかってあげようか?"

 ありがとう、雑巾さん。

 ……あたしの創り出した幻聴? 
 いやいや、雑巾さんはあたしに語ったの!
 
 お疲れさまの雑巾さんを、汚物流しで洗剤をつけて綺麗に洗って上げる。

 白くなっていく雑巾を見て嬉しくなって鼻歌を歌っていたから、あたしをのぞき見ている声に気づかなかった。


「普通お嬢様って、片付け出来ないわよね? ここの夫人みたいに」

「しかもなんであんなに雑巾洗えるの? 手が傷むとか考えてないよね?」

「へこたれるどころか楽しそう。なんなのあのひと」
 


「よーし、綺麗になった! 雑巾さん、乾いてね。あれ、偉いから、"お雑巾さま"かしら。よーし、今回はお雑巾さまと呼んじゃおう! ご協力ありがとうごさいます、お雑巾さま」



「雑巾に拝むあたり、世間知らずのお嬢というより、ただの変なひと?」

「お雑巾さま……?」



「あ、お掃除終わりました! 次はなにをすればいいですか?」


 鹿沼陽菜、営業スマイル!


 なぜか先輩の使用人達は、怯えた顔をした。
 


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