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いじっぱりなシークレットムーン
第13章 Final Moon
 
 
「言ったでしょう、陽菜ちゃん。私、黒帯なんだって」

「沙紀さんっ、惚れそうっ!!」

 嬉し泣きをして沙紀さんに抱きつくと、わざとらしい咳払い。

「朱羽くん、捕まえた?」

 沙紀さんは頭を後ろにねじ曲げて言った。

 沙紀さんの後ろには――。

「はい、ここに」

 朱羽の声。

「え、朱羽?」

「外に備品倉庫なんてないの。だから嫌な予感して、渉に連絡しておいた。渉はメイド達に尋問、朱羽くんは私と外を探していたの」

 月光を浴びて、青白く映る朱羽が歯っ欠けの男の襟首を掴み、言った。

「彼女は俺の婚約者なんだ。俺の大切なひとになにを?」

「ひぇぇっ……」

 婚約者という肩書きにぽっとしたあたしの視界の中で、男は腰を抜かしたように地面に崩れ落ち、恐怖の声を出した。

 そして闇夜に、よく通る怒声が響き渡った。

「誰に手を出したと思ってるんだ、死にたいか、お前!!」

 ひぇぇぇぇぇっ!!

「すみません、すみ、すみません、ゆ、ゆる、許してくだひゃい」
 
 あたしも、噛みながら泣く男のように朱羽の足元にひれ伏したくなる。

 彼は、あたしに見せる顔はえっちで温和になったけれど、実際はかなりの激情を秘めた男なのかもしれない。

 それはきっと環境によって、彼を年齢以上に大人びた姿に隠されてしまったけれど、彼は元々は専務のように喜怒哀楽がはっきりしているのだろう。

「なぜこんなことをした!? 彼女は俺の大切なひとだと言ったのを忘れたのか!!」

「い、いひぇ…。ここ、ここ来た、おん、女、す、すすす好きにしちぇいいと言わ、言われぇて……」

 恐怖なのか、かみかみの上に、ところどころの言葉が抜けて聞こえる。

「誰だ、言ってみろ!!」

「おきゅしゃま、おきゅしゃまが……っ」

 完全にテンパっているようだが、恐らくこれは"奥様"、なのだろう。

 美幸夫人!?
 あたしが来ることを見越して!?
 
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