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いじっぱりなシークレットムーン
第13章 Final Moon
「よ~し、とろとろ卵にな~れ~っ!!」
どうだっ!!
凝ったら懲りすぎるこのA型、実はふわふわ卵と黄金チャーハンは何度も練習していたのだ。
「うわあ、陽菜ちゃん美味しそう! 上手!! これはプロだよ!!」
戻って来た沙紀さんに褒められ、あたしは得意満面。
「えへへ。あとはあんをかけて……っと、とろみ忘れていた」
その時、声がした。
「遅くなりました。もう聞いて下さいよ、すべてあの新入りのせいで……」
「はい、スープ運ぶ!!」
シゲさんにお盆を押っつけられ、あたしのせいにしようとしたらしいメイドが、状況を把握出来ずにおかしな声を上げていた。
落とされた袋から片栗粉が見える。
「よかった~、これで完璧!」
とろっとろのあんを作り終えて、すべての天津飯を持ってあたしは沙紀さんと一緒に二階に上がった。
二階食堂――。
静寂な中で、カチャカチャという音だけが広がる。
……おい、感想は? 皆で一生懸命作ったんだよ?
所要時間十五分弱で。
「お味はいかがでしょうか」
沙紀さんがにっこりしながら聞いた。
朱羽はなぜか真っ赤な顔で目をうるうるさせている。
どうした?
「ははは。いや……なかなかの腕前で。シェフが変わったかな?」
わざとあたしを見る専務。
「いいえ、私が作りました」
シゲさんが前に出て、頭を下げた。
「申し訳ありません、ご当主。トラブルがあり、仰られていたものを作ることが出来なく……」
シゲさんは、あたしを庇おうとしてくれたんだ。
シゲさんがすべて味見をしてOKを出したとはいえ、すべての責任を負おうと。ああ、当主は気難しい顔をして、料理をじっと見ているから。
「すみません、あたしが作りました。お口に合わずにすみませんでした」
あたしは素直に謝った。
材料がないからとか、時間がないから、など言い訳にしか過ぎないことはわかっている。決められた条件で出来ないのは、顧客の信用を得られないのと同じ事。
悔しいけれど。
「いや……、これはなにかな」
「へ?」
当主は、ひとつだけしか残っていない、かぼちゃあんを揚げたものを、箸で突いていた。
それをずっと考えていたのかよ!