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いじっぱりなシークレットムーン
第13章 Final Moon
「ご当主。温かいものをお持ちしますか?」
シゲさんの声に、当主は軽く頭を横に振った。
「いいや。冷めたのが気にならない。シゲのも美味いが、中々に陽菜さんのも美味い。お前達の分もあるのか?」
「はい、大目に作っております」
「ならばよかった。正直胃も疲れていたから、このとろとろが美味いなあ。ショウガも身体が温かくなる」
……もしかすると、当主に必要だったのは身体に優しい料理ではなくて、孫のことを知れる場所ではなかったのだろうか。
欲しかったのは、普通の家族……?
嬉しそうに、美味しいと連呼する当主。
年老いてひとの情に目覚めたのだろうか。
……朱羽達の心情を考えたら、当主の自分勝手な心境の変化に、なんとも複雑になってしまった。
「本当に申し訳ありませんでした!!」
シゲさんが深々と頭を下げて謝罪する。
それは、あたしを外に拉致させ、夕食が駄目になるのもすべてあたしが裏で暗躍していたせいにしようとしていたメイド達の陰謀が、露見したからだ。
そこまであたしは、生意気で妬ましい存在であったらしい。
メイドの一部は歯っ欠け男に頼み(美幸夫人のせいにして)、
一部はあたしを外に出すための意地悪をして(裏で笑ってたんだよ、きっと)、
一部は使う食料をゴミに捨て(ゴミを捨てているのは、あたし見ていたのに)、
一部は買い物に時間をかけて間に合わなくさせて(しかもシゲさんが頼んだものは完璧じゃなかったみたい)。
その計画が狂ったのは、あたしが早い段階で外から戻ってきたからのようだ。
いないはずのあたしが居て、しかもあるもので料理をしていたなんて、誰も予想することも、あたしのせいにすることも出来ずに、シゲさんに怒られる羽目となった。
あの時、シゲさんとともに厨房に居たメイド達は、シゲさんに怒られる前に、あたしの袖を引いて、意地悪をしたことを頭を下げて謝ってくれた。
――ありがとうございます。黙っててくれて。だけど、良心の呵責を感じるから、告発させて下さい。
あたしに謝り、それを暴露した上で、それ以外のメイドと共にシゲさんに怒られている。あたしが慌てて止めるほどに。