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いじっぱりなシークレットムーン
第13章 Final Moon
……この世には、生まれながらの悪人はいないと思うんだ。
確かそれは性悪説と言ったっけ。
その反対の性善説をとるほど、人々があたしにしてくれたものは、善良だけではなかったから、その中間。
人間はどこか歪で不足して、不完全な存在だと思うんだ。
だからこそ、自分のないことをするひとを嫉み、僻む。
他者を寄せ付けない完璧な人間はいないから、誠意と真心で全身全霊で頑張れば、通じるものだと思う。通じない人間はいない。
それはメイドも、美幸夫人も、当主も。
ベストを尽くせばなんとかなる。
別に料理を買って出たのは、メイド達に尊敬されようとしたわけでも、料理に自信があったわけでもない。
やはりそこは連帯責任、出来ることは全力で協力したいと思ったからだ。
その自覚に欠けていたメイド達に、なにか訴えかけることは出来たらしい。まあ、至極必死だったからね、凄い形相して料理をしていたと思うけど。
シゲさん曰く、こうして殊勝な態度で一同がまとまるのは、初めてのことらしい。
――それだけ、一番の新人のあなたが必死にしていることを、やろうとしなかった自分の未熟さに、各々思うところがあったのかしらね。
もうひとりのベテランさんのタエさんがいない。
――あのひと、いつも気づいたらいなくなるの。まあ持病もあるから無理は出来ないのだけれど、古参だから扱いづらい。
沙紀さんを含めて皆で食べる夕飯。
かぼちゃ揚げがなぜか半分近くなくなってしまい、ひとりふたつずつしか食べられなくなったアクシデントもあったけれど、シゲさんに宣言された。
――陽菜さんを認めます。
誰もに拍手された。
くたくたになって、ようやくあたしは、この屋敷の入り口を入れた気がする。権力を振りかざさなければひとはわかりあえると、理解できないことはないという、自信をつけられた気がする。
心を開いて貰えたからあたしは聞けるんだ。
「ねぇ、美幸夫人のことを教えて貰いたいの」
忘れてはいけない、夫人の情報収集に。
沙紀さんでも聞けなかった、夫人の隠されたものを。