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いじっぱりなシークレットムーン
第4章 Secret Crush Moon
 


「違います、あたしは結城にそんな気持ちは……」

「へぇ……。それで朝帰りですか」

「……っ」

「しかも、気づいていないようだから言いますが」


 課長は、包帯の手であたしの腕を引いて、あたしの身体を前に倒した。即ち、彼の胸の中に。回避しようとしたのだが、課長の手が伸びて抱きしめられた。


「ちょっと、課長、離して……」

「離さない」

「こんなところ、誰かに見られでもしたら……」


 身体を離そうとしたのだが、課長が離してくれない。


「私達は付き合ってるんだからいいんです」

「よくないですってば! あたしと課長は恋人でもなんでもないんですから!! 誤解されたら身動きとれない……苦しいっ、離せってば!!」


 あたしの抵抗を難なく制した課長の声が、耳に囁かれた。


「なんで、あなたと結城さんから漂う匂いが、同じなんですか?」


 低く、官能的な声色で。


「!!!」


 結城はあたしの家であたしのシャンプーとボディーソープを使った。

 そしてその後あたしも、同じものを使ったのだ。


「そ、それは……」

「それは?」

「それは、たまたま……」


 すると乾いた笑いがして、課長はますます強くあたしを抱きしめた。息も出来なくなるほど。

 服など着てないように錯覚するこの密着に、……彼の匂いに、息苦しいしドキドキが止まらない。


 もうやだ、おかしくなりそう。

 満月の次の日であったことに感謝する。次の日は、あたしの理性が一倍強いから。

 そうでなければ変な気をおこしそうだ。

 彼の匂いに、彼の力強さに、彼の声に。


――気持ちいい? チサ。


 魅了されてしまうから――。

 
「たまたまなんです。もう離して……っ」


 逃げろ逃げろ逃げろ!!

 あたしの本能が警鐘をならしている。最大の理性が、危機を告げている。


「……それで俺は、あのひとがわざとしでかした"たまたま"に、煽られたってわけか」


 再び、一人称を変えて彼は言う。


「……むかつく」


 いつもの鉄面皮を取る。

 そこに現れるものは、あたしには見えない。


「むかつく。結城さんを守ろうとするあなたも!!」
 
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