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いじっぱりなシークレットムーン
第13章 Final Moon
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――シゲ。美幸の部屋を開けよ。
当主の部屋から、シゲさんとともに出た。
向かい側にある小応接室に、あたしと朱羽、専務と沙紀さんは、戦闘前の準備としてシゲさんと話をした。
あたしは皆を代表して、美幸夫人についてどう思うのかという質問をしてみた。
「皆さまは奥様のことを悪く思われているようですが、私には……」
無表情で、命を下した当主の部屋から出たシゲさんは、僅かに表情を崩しながら言った。
「奥様がああなったのも、よくわかる気がします」
……美幸夫人の側近としての感想か。
「それはなぜ?」
専務が訪ねると、シゲさんはどもるようにしながら答えた。
「忍月の呪いのため」
「それはどんなものなの?」
あたしはシゲさんに聞いた。
「それは奥様だけではありません。使用人だろうと忍月の方々だろうと、大それた夢を心に描き、いつしか傲慢になり、ひとの心を失っていく。きっとそれは、渉さまが一番ご存知のはずですけど」
「……ああ。でも今は、昔より落ち着いてはいないか? 正直、もっと過酷になると思っていたんだが」
それはあたしも思う。
名取川文乃に散々脅されるように注意されたほど、当主も冷酷ではない。
「それは……、年のためです」
シゲさんは、顔を俯き加減にして言う。
「年って年齢のことですか?」
「はい、朱羽さま。年齢です。年齢が彼らを変えて行く。一方では身体を患い気弱になっても、老人として話を聞き、どうにか孫に囲まれるように画策してくれる、第三者に恵まれ」
あたしは沙紀さんと顔を見合わせた。
「一方では孤立して、子供もなく鬼だ悪魔だと言われて、人前にも出てこれない。同じく年を取ったというのに、奥様を追い詰めた当主がなぜ幸せになり、忍月に染まった……被害者とも言える奥様だけが、なぜこんな惨めな人生を歩まねばならないのか」
それは、美幸夫人を擁護しているようにも聞こえる。
彼女は、忍月の被害者であり、ひととしての根底が悪いものではないのだと。