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いじっぱりなシークレットムーン
第13章 Final Moon
「では参りましょうか」
シゲさんが、ドアを促した。
少し、強張った顔をした朱羽。
彼は、専務のように立ち振る舞えるほど、美幸夫人にも女にもまだ慣れていない。だからきっと見合いの時も、美幸夫人にいいように触られたままでいたのだろう。彼の振るまいの如何が、彼の未来を決定するように思えて、拒絶も出来ずに。
「朱羽、あたし頑張れるよ?」
「そうだよ、朱羽くん。あたしも陽菜ちゃんも、渉と朱羽くんがされた過酷な過去はないから、任せてくれれば……」
「いいえ。これは俺の戦いでもあります。確かに当主は丸くなったように思えますが、だからといって俺は、見捨てられた時のことを忘れるわけにはいかない。それと同じように彼女がしたことで、母が死んだことを思えば許すことも出来ません。だけど……きっとそれが呪いなのでしょう」
朱羽は専務を見た。
「渉さんも、忍月の呪いにかかっている。沙紀さんがそれを解こうとしてくれたけれど、やはりしこりは残っている。これはきっと、俺達忍月の者達が自分でなんとかしないと、前に進めない。……この財閥を継ぐことも出来ない。当主を哀れんだ妥協案を、現実化するために」
「ああ、そうだな。一番顔を背けていたい呪いの元凶へと足を進めようか。俺達には、呪いすら跳ね返す頼もしい恋人がいるんだから」
「はい、そうです。俺達は忍月の闇に取り込まれることはない。陽菜が沙紀さんが、きっと探し出して手を引いてくれますから」
専務と朱羽は、各々沙紀さんとあたしの手をとった。
「陽菜、弱い俺でごめん。だけど俺もなんとかするから。今まで傷んで膿んでいた傷口を、見据えるよ。真っ向から」
「うん。泣きたくなったり辛くなったら、あたしの手をぎゅっと握ってね。あたしが呪いを跳ね返すから」
「私も跳ね返すよ、投げ飛ばしてやる」
「はははは」
シゲさんがつり上げられた口元が、微笑みなのか嘲笑なのかわからないまま、あたし達は美幸夫人の部屋の前に行く。
コンコンコン。
「美幸さま、シゲです。お話があって参りました」
中から返事が聞こえる。
シゲさんが鍵を回し、ドアが開いた。
それとも共に、規則正しかったあたしの呼吸が緊張に止まった。