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いじっぱりなシークレットムーン
第13章 Final Moon
 

「見ないで、見るな、見るな、見るな――っ!!」


 それは――。


「美幸、もう楽になろう? かなり具合が悪いんでしょう? もういい加減、治療を受けないと!」


 そこに居たのは――。



「タエさん!?」


 あたしに威嚇してきた、推定70歳の老女。


 だけど、待って。


「おかしいよ、そんなの! だって見合いの席にはもっと……っ」

「そ、そうよ。私だって、意識落としたのこのひとじゃないわ!」

 あたしと沙紀さんが、悲鳴のような声をあげた時、カチャリとドアが開く音がして、中に誰かが入って来た。


「シゲ、鍵あいてたわよ。やっぱりここのシャワーより、下のお風呂が気持ちいいわ。で、久しぶりの風呂の後の話ってなに? 私、ここに閉じこもってなくていいの? 美幸みたいに、もううろついてもよくなったの?」


 入って来たのは――。


「み、美幸夫人……っ」


 そう、見合いの席に居た美幸夫人で。

 シゲさんのように似ている、というより美幸夫人そのもので、声も嗄れていない。


 頭が混乱した。


 あたしは、誰を美幸夫人としていたの?

 本物は誰?



 朱羽が言った。


「……美容整形が崩れたのか、遺伝性の病気かストレスからなのかはよくわかりません。ですが恐らく」

 朱羽の眼鏡のレンズが青白く光る。

「美幸さんは、昔のような若さも美しさも維持できなくなった。だから近年美幸さんの双子の姉妹であるタエさんを呼び寄せ、美幸さんのふりをさせ、そしてあなたはタエさんのふりをして、美幸さんにかかる悪い噂を消していた。違いますか?」

――一方では孤立して、子供もなく鬼だ悪魔だと言われて、人前にも出てこれない。同じく年を取ったというのに、奥様を追い詰めた当主がなぜ幸せになり、忍月に染まった……被害者とも言える奥様だけが、なぜこんな惨めな人生を歩まねばならないのか。


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