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いじっぱりなシークレットムーン
第13章 Final Moon
朱羽の怜悧な瞳は、まっすぐにシゲさんに向いていた。
確かに、タエさんのような老女は悲鳴のような奇声をあげて怒りとおびえの狭間で揺れ、美幸夫人のような美しい顔をして一番新しく部屋に入っていた女は、そんな異常な空気に揺れずに、好色そうな眼差しを沙紀さんだけではなく、専務や朱羽にも向けている。渦中に己がいるとは思っていない、興味のないものには冷ややかな他人顔。
困惑したような表情を浮かべるシゲさんだけが、この場における正常だ。
「シゲさん。俺の推測は、どうですか?」
シゲさんの目が揺れている。
拒絶の言葉が出てこない、これは――。
「ほ、本当なんですか?」
あたしの喉の奥からは、驚愕と動揺にひりついた声しか出てこない。
まるで、老女のような嗄れた声。
「シゲさん! あたしが見合いの席で見た美幸夫人が本当のタエさんで、そしてあたしが今日見たタエさん……シゲさんの横にいるタエさんが、本当の美幸夫人なんですか!?」
自分の言葉で言うと、頭がぐらぐらして吐き出す息が荒くなってくる。
美幸夫人がふたり居る――。
それだけで混乱して今にも過呼吸を引き起こしそうなあたしを、隣に来た朱羽が肩を抱いてくれた。肩を抱きながら朱羽の大きな手のひらが、あたしの後頭部を優しく支えてくれる。
あたし達の視線を浴びたシゲさんは――、
「……はい。朱羽さまと陽菜さまのご指摘通りです」
項垂れるようにして頷いた。