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いじっぱりなシークレットムーン
第13章 Final Moon
「当然よ」
そう言ったのは、美幸夫人の姿をしたタエさん。
「あの男が、美幸にしたことを思えば、お役御免と追放すること出来ないでしょうよ。美幸はあの男が裏でしていたことを知っているし、幾らひとでなしとはいえ、あの男が美幸に受けた恩を忘れてはいけないわ」
そう勝ち誇ったように笑うタエさんとは対照的に、老女は怯えたようにしてシゲさんに縋っている。
「あの男に狂わされたのは、美幸だけではない。シゲも私もそう。今更被害者面して、美幸を追い出させるわけにはいかない!」
それは見合い会場で見せていたような、強い眼差し。
「シゲが高校二年、私と美幸が高校一年の時、親が借金を作って蒸発した。毎日のように借金取りのヤクザが押しかけてきて、三人でバイトしようとも高校生が貰えるお金はたかが知れていた。そしてヤクザはこう言ったの」
――お前達のうちひとり、俺達のところに来い。年齢を誤魔化して高額バイトをさせてやろう。こんな借金くらい、二年あれば返済出来る。
シゲさんは、老女を宥めながら言った。
「……私達三姉妹のうち、ひとりを犠牲にすればこんな借金地獄から逃れられる。長女の私が行くべきところを美幸が笑いながら言った」
――私が行くわ。私が一番、汚れてもいい身体をしているし。シゲは優等生なんだから、エリートの道を目指してよ。
「美幸は派手で、男遊びも激しかった。大人の男性から身体で小遣いを稼いでいた……そんな子だった」
「いつも面倒を見てくれていたシゲとは違い、美幸は遊んでばかりいた素行がいいとは言えない子だったけれど、それでも誰が喜んで借金取りの言う場所に行ける?」
シゲさんとタエさんは、目に涙を浮かべた。
「美幸は接客がうまかったから、風俗から、やがて銀座のホステスにまで格上げされた。その時は借金も返済出来るほど人気だったらしいけど、借金が終わっても美幸は戻ってこなかった。美幸はそういう世界にしか生きられない身体となり、そして稼いだお金で私達を養ってくれたの。たまに家に帰ってきたりして、平和になった古い家で笑い声も再びするようになった」
――姉さん、私ね、この世界で頑張って頂点目指そうと思うんだ。私に、向いているのよ。だからこれは私が選んだ道だから、心苦しく思わないで。
「美幸は姉思いの優しい子なのよ。それを、あの男がっ!!」