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いじっぱりなシークレットムーン
第13章 Final Moon
悪いけど最近、あたしは自分を含めて、虐げられてきた人間達の心の叫びを聞いてきた。言葉にならない想いに、心を震わせてきた。
だが、それがないのだ。
美幸夫人がなされたことを語るタエさんには。
彼女は第三者のはずなのに、被害者の家族という立場であるはずなのに、ここまで被害者当人のように熱くなっているから、そこに温度差が生まれてしまっている気がする。
なぜだろう。
美幸夫人は悪い女だという先入観が固定されてしまっていたから?
確かに当主は、罪悪感を覚えるなにかを、美幸夫人にしていたのは確かだろう。
財閥に入った当主は、向島専務のように壊れていき、そして使用人達の態度、朱羽や専務が受けた傷に伝染する元凶となったのも確かだ。
だけど――。
「使用人達が美幸をどう蔑んだのかご存知? 渉さんや朱羽さんは母親を持ち出すけれど、彼女達が美幸になにをしたか! たかだか忍月の住人とセックスをして、子供が出来たことを、子供が出来ない美幸に勝ち誇ったように自慢して、そして老いていく彼女に笑って言った」
――愛される要素なんて、なにもないわよね。
……そこだけは、狂気のような怒りを感じた。
"愛される要素"
「それはあなたの言葉なんじゃありませんか、タエさん」
朱羽が冷ややかに言った。
美幸夫人の顔をしたタエさんは、不愉快そうに目を細める。
それでも朱羽は続けた。
「"美幸ではなく、私が愛されたいのに"、"私が夫人の座に居たいのに"」
「違っ」
否定しながらも、明白な動揺をしている。
「結構な熱弁、どこまで続くのかと思わず聞き入ってしまいましたが、もうそろそろよろしいですか?」
朱羽も……冷めている。
杏奈のことには、あれほど向島専務に怒声をあげた男が。
「お姉さんはそれで情で流されるのかもしれませんが、生憎私も……陽菜も、修羅場をくぐり抜けてきているので、傷つけられる者の痛みというものには特に敏感なんです」
うっすらと口元に笑いを乗せて、朱羽があたしを見る。
あたしもタエさんの言葉に疑問を感じていたのを、感じ取っていたのか。