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いじっぱりなシークレットムーン
第13章 Final Moon
「美幸さんへの同情を誘い、陽菜に有利な決断をさせようとしたのでしょうが、申し訳ありませんが陽菜は空々しく感じていたようです」
「な……っ」
タエさんが怒りの眼差しを向けてくる。
「なによりあなたは怒りなど感じていないでしょう。あなたは恐らくは、愛する男に愛されるために、この本家に来たくせに。決して美幸さんのためなんかじゃない。むしろ美幸さんは邪魔だったはずだ、あなたの愛にとっては」
朱羽の断言。
あたし達は思わず、静かな口調の朱羽を見つめた。
「どういうことですか?」
シゲさんが怪訝な顔をした。
「当主も亡き父も、同じ女を取り合っていたのかと思ってましたが、どうやらそれは違うようです」
「え?」
あたしは朱羽を見上げた。
「まず、……沙紀さんごめんなさい、美幸さんと身体を重ねたことがある渉さんが、なぜ今の美幸さんが別人だと違和感を感じなかったのか。渉さんの観察眼は鋭い。その渉さんが、タエさんが美幸さんのふりをしていることに、気づき得なかった」
「確かに。それは俺も驚いたな。そっくりとはいえ、俺と関わりねぇ女がひょこっと本家に入ってきて、それで美幸さんの真似を出来るのか」
「ええ。見合いの時に過去のことを言われた反応も、指図するものも、渉さんは疑問に思わなかった」
「ああ」
専務は難しい顔をして、頭を掻いた。
「つまり、最初からタエさんはいたんです。どのタイミングで出ていたのかはわかりませんが、渉さんは既に目にしていたから違和感を感じなかった。本物と偽物が入り乱れる本家で、渉さんは生きていた。もしかすると夜の相手も入れ替わりだったのかも」
「なっ、でもタエは後から……」
朱羽は笑いながら、それは後でと遮った。
「それと、月代会長が亡き父のことを口にしたのを覚えてますか?」
「あ、ああ。可愛がって貰ってたという奴だろ? これにも驚いたが」
――俺が渉を可愛がったように、俺も……可愛がって貰ったんだよ。さほど年の差はなかったけれど。
「ええ。美幸さん以外が、美幸さんのふりをしているのでは……そう思った時、会長のこの言葉が自然と思い出されました。俺は、俺達は。なにか先入観に惑わされていないのかと」