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いじっぱりなシークレットムーン
第13章 Final Moon
「先入観?」
「はい。俺は亡き父のことは一切わかりません。渉さんから聞く限りです。そして俺は、渉さんの母親が殺されているのを、当主と一緒に見て見ぬふりをしたということから、当主と同じ類いの人間だと思い込みました。だけど、もしも違っていたら? 渉さんにとっての月代会長は素晴らしい方であるように、月代会長から見て亡き父も、実は素晴らしかったら?」
「それはねぇだろうさ」
「では月代会長の目がおかしかったんでしょうか?」
専務は押し黙る。
確かに月代会長はひとを見る目がある。その上で朱羽の父親を尊敬していたのなら、そういう人間なのではないだろうか。
「渉さんは、亡き父から直接なにかされたりしました?」
「いや。我関せずだが、厳しいひとだった。当主に似て」
「もとそれが、愛人の子供だから、強く本家で生きれるための教育であったのなら?」
専務の眉間に皺が寄った。
「渉さんは途中からお母さんと一緒に、この屋敷に来た。最初から本家で産まれていたわけではない」
「ああ」
「もしも、父の愛情で渉さんを守るために、素っ気なくしていたのだったら?」
「そうだとしても、それがなんだよ?」
「当主よりもずっと、ひとに優しい男だったのではなかったのかと思います」
朱羽はまっすぐ、タエさんを見た。
「少なくとも、あなたが好きになるくらいは」
微かに、タエさんの唇が戦慄いている。
「そして、美幸さんが好きになったのは彼ではなく、強引で厳しい当主だった」
「と、当主!?」
思わず出てしまった声に朱羽は頷き、同時にタエさんは横を向いた。
本当の美幸さんは、今までの奇声が嘘だったかのようにただじっと朱羽を見ている。老人特有の濁った目で。
そしてシゲさんは、驚きが張り付いた顔をしている。