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いじっぱりなシークレットムーン
第4章 Secret Crush Moon
 



 九年前の彼とは違う――。

 快楽の細胞を深く抉るように舌を動かす彼は、あたしに大人に成長している男であることを主張してくる。

 あれから何回女を抱いてここまで経験値を上げたのだろう。

 あの時よりもずっとキスが上手でいやらしくリードしてきて、それを受けるだけのあたしは、男を知らない処女のように、あまりの気持ちよさに意識が飛びそうになるのを堪えるしか出来ない。


「んん……んふ……ぅ、ん……ぅっ」
 

 引きずられる。

 呑み込まれていく。


 酸素を取り込むことすら許されず、ただ彼の熱だけを与えられて、快楽に蕩けていく――。


 激しい水音。

 荒い呼吸と、漏れ聞こえる甘い声。


 生理的な涙を流して目を開ければ、既に薄く開いている彼の目から、あたしが感じている以上もの高い熱を見せてきた。……まるで濡れた瞳の奥で、炎が渦巻いているかのような。

 茶色い瞳が、青白い炎に溶けて、琥珀色になる。

 彼が欲情した、蜜を深めたようなあの色に――。

 
 腰のあたりがぞくぞくしてくる。

 彼からも喘ぎのような甘ったるい声が聞こえた時、子宮がきゅんきゅんと疼いてくる。


 今日は満月じゃないのに。

 今まで、こんなことないのに。


 神聖なる職場でこんなことをされて、しかも相手は直属の上司で、恋人でもないというのに、まるで満月の引力のように、怒濤の勢いで彼に引き寄せられていく。


 このひとの熱を、もっともっと強く感じたい。

 このひとに、身体の疼きを止めて貰いたい。

 身体を、もっと触って欲しくて苦しい――。


 舌と同じように、視線も強く絡んだ。

 多分、あたしの欲情した目を誰よりも近くで見ているはずの彼は、少しだけ柔らかく目を細めると、


「……っ」
 

 唇を離したのだった。

 思わず唇を追いかけると、再び触れあう寸前で彼は声を出した。



「気持ちいい? ……チサ」


 あたしの心で急ブレーキがかかった。

 あの時の情事の言葉で、だけど今はただの揶揄に過ぎないと、彼はそう言っているように笑った。

 口端からは、淫らな銀の糸が繋がり、照明にキラキラと光っているというのに。


 そうか。

 キスに溺れたのはあたしだけか。

 九年前の仕返しでもしているのか。
 
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