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いじっぱりなシークレットムーン
第13章 Final Moon
「……あの時の、あのひとの気迫は今でも忘れられぬ。優しい男が、厳格な父親を脅迫して私を妻にしたのだから」
先が長くないことを知る息子。
慈善のつもりが、双子の運命を変えていった。
「私を傷物にして捨てようとしていたあの当主の、あの顔だけで心がすっとした」
老女の目は悲しげだ。
「だけど美幸さんは、親父だけではなく当主とも寝ていただろう」
専務が聞く。
「今となれば、タエさんがそこに混ざっていたのだろうが、美幸さんも多淫だったのか? 忍月の男に抱かれることが復讐と?」
老女が薄く笑う。
「私は当主には抱かれておらぬ。なにが嬉しくて、私の身体を壊した男にまた抱かれるのか」
だったらそれは、タエさんなのか。
しかし当主と寝る必要があったのだろうか。そして当主は美幸さんを抱いている。わからないほど、双子の身体は隅々まで似ているのだろうか。
「朱羽のお父さんが慈善で好きでもない相手と結婚出来るほど優しい男であるのに、なんで浮気をして子供ばかりを作ったんですか?」
愛してもいない男に美幸夫人が身体を拓いたのであるのなら、なぜその男は他に手を出していたのだろう。
優しかったら、愛してもいない女に義理立てしてもいい気がする。
少なくとも朱羽は、そんな優しさはない。
「オスが持つ種の生存本能だな」
腕組をしながら専務が言った。
「死期を感じ取って、子供が欲しくなったんだろう」
しかし妻は子供が産めない。
だから、他に手を出したと?
他の女は、子供を産む道具ということ?
沙紀さんの声がした。
「でも、それだったらタエさんでもいいんじゃない? 同じ顔だし。だませなかったということ?」
本当だ。なぜタエさんは子供を作ろうとしなかったのだろう。
こう言ってはなんだが、タエさんも想いを遂げられるのに。
朱羽が目を細めながら、言った。
「亡き父が、気づいたんですか? あなたと美幸さんが別人だと。いや、それだけではない。もしかして、美幸さんを好きになってしまった、とか?」
タエさんは、僅かに血の気を失った唇を震わせた。