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いじっぱりなシークレットムーン
第13章 Final Moon
「お前は知るまい。私が使用人達に蔑まれていたことに。大体使用人が子供を身ごもり妻の座を狙うという事態は、私が庶民だったから見下されたのだ。足元を見られて、それだったら自分の方が、と名乗りを上げた。私は散々と蔑まれた。卑しい女だから、あのひとが他の女を抱いていると」
「でも親父はあなたを……」
「私からしてみれば、あのひとに愛情があったなど、笑ってやりたいわ。私は子作りの道具としてしか見られていなかった。顔を合わせば子供子供……どれだけ私の心が傷ついたか、あやつはしらぬ」
老女は声を震わせた。
「孤立した私に、使用人達が、女達が、妹まで、すべて私の敵になるこの狭窄感と閉塞感、そして危機感に毎日怯えていた。なぜ私が整形をしたのか、わかるか」
どんよりと澱んだ眼差しが、専務に向けられる。
「私の整形は美容ではない。使用人の女達が私の顔を潰しにかかってきたのだ。ある時突然。陥没した顔を、元に直しただけのこと。渉が来る前に」
「え……」
それは私刑。
「ふ……さすがは忍月。名医と知り合い、治療費や入院費の心配なく、完全復元手術を受けられた。その時は、純粋にそう思った。だが、そのツケを今支払っているようなもの。お前達にわかるか? 死と痛みの狭間で、顔の骨が折れて醜く腫れ上がった時の気持ちを! 悪夢はいまだ続く」
老女は怒りに震えた。
「特別に綺麗だとは思わぬ顔だったが、醜くなるあの恐怖は今も心に根付いておる。子宮を奪われ、顔も奪われ。私の人生は忍月に変えられた。そこから私は、生きるために変わらないといけなくなった。そうでなければ殺される。無念のまま、死んでたまるかと」
「そ、そんな……」
「信じる信じまいは、お前達の勝手だがな、渉。あの日もお前の母は、私にお前を自慢しに来たのだ。そして私を女ではないと詰った。ただのお飾りだと、そんな妻の地位など奪ってやると。もう一度、その"作られた"顔を壊してやろうかと。ライターに火を点けて襲ってきたのは、お前の母の方だった」
専務と朱羽は口をあけたまま固まっていた。
「なあ、名取川の養女。死にたくないともがいて、敵が燃えてなくなることに喜ぶのは、いけないことか? 私は再び、使用人になされるがまま……顔や身体を喪失すればよかったのか?」
あたしは……なにも答えられなかった。