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いじっぱりなシークレットムーン
第13章 Final Moon
「自業自得よ。あの女は働きもしない、お前を養おうともせず、親権を放棄していた堕落した女。自分がよければそれでいい、忍月は止めどなくわき出る金の泉だと軽んじた。金と男に狂ったあの女を、渉が精神病院に入れたな」
「はい」
専務が頷く。
「あの女はお前達がいない間に、妊娠が発覚した」
「……妊娠?」
朱羽が強張った声を出す。
「そうだ、お前の弟だ。誰の子かわからぬ、いいだけ麻薬漬になった母体に宿った子供よ。その設備がなされていなかったため、別の病院に転院した。なにも私が望んで移したわけではない。必要があったから移しただけだ。嫌いな女であろうと、私には出来ぬ子供がまたいるのであれば、見殺しにも出来ぬだろう。あの女ひとりだけなら、放置させるが」
「しかし、母さんは食べるものを取り上げられて餓死したと……」
「妊娠ゆえか麻薬の後遺症ゆえか、強い幻覚に襲われたようで、食物に糞尿をかけて、朱羽の名前を呼んで顔になすりつけていたという。それを取り上げ、手足を拘束の上に食べ物を出せば、泣き騒いで拒食したため、母胎ともに重篤な状態になり、死んだそうだ」
「そんなこと、医者に聞いたこともなかった」
専務が言うと、美幸さんは薄く笑った。
「当然。私が止めた」
「なぜ?」
「あの女は、自らをあのひとの正妻だと言い張り、あのひとに一番愛されている母子だと言った。いつもお金をくれて、子共を育てているのだと……それが許せなかった。たとえ狂っていて、幻覚が見せたものだとしても、あのひとが死んだ後、遺された女がそう思って口にして……過去を歪ませることが。だから死んだ事実だけを口にするように医師に言った。狂っておかしなことを言っていたことを、私は認めたくなかった」
別に美幸夫人は、朱羽の母親を殺そうとしていたわけではなかったのか。
「当然に私には殺意があった。この屋敷でも、渉の母親が死んだ後、今度は成り上がりのあの女が出てきて、他の使用人達を扇動していたのだから。だがその殺意は形にしてはおらぬ。結果的には、死なせてしまったが、朱羽の弟が私の殺意が悪しきほうに行かぬよう、正してくれた」
美幸夫人はあたし達を見た。
「殺意を抱くことは許されないことなのか? 殺意を抱いたから、私は朱羽の母親を殺したということになるのか?」