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いじっぱりなシークレットムーン
第4章 Secret Crush Moon

***
――もう俺は、九年前の子供ではないことを、証明してみせます。……覚悟していて下さい。
我に返れば、ふつふつと込み上がるものがある。
覚悟って何? 九年前を持ち出して、何をしたいの、あの男!!
トイレの洗面台、冷や水を顔にかけて化粧をし直し、キスの形跡はすべて消した。
簡単にキスを許しただけではなく感じてしまって、さらには女として彼を求めようとしてしまった自分自身が情けなくて、浅ましくてたまらない。
しかも会社で、しかも相手は上司で、しかも満月ではないのに。
――たとえ嘘から始まった関係でも、俺はあなたを逃がさない。あなたを愛する恋人として、夢中にさせてみますよ、……陽菜さん。
「呼び捨てを許可した覚えはなぁぁぁいっ!! お前は何様だぁぁぁ!!」
鏡に向かって大声を上げたら、何人かの女の子が慌ててトイレから逃げていった。だけどあたしはちょっとだけすっきり。
席に戻れば、隣の席に香月課長は戻っていないようだ。
内心ほっとしながら席に座れば、斜め向こうから、イケメン台無しのぶすっとふて腐れたかのような顔で、こちらを見る結城がいる。
ちらちらと視界に入るため、身体を斜めにして避けても、もれなく結城の視線がついてくる。
奴は観察力に優れているというのか、とにかく勘が鋭い。
いつもならはぁいと手をひらひらさせて愛想が出来るけれど、見て欲しくない時に限って奴はよく見て、事実を看破してくる。
案の定、LINEが来た。
あたしは俯き加減で、膝の上でスマホを弄り応答する。
"香月となにあった"
"なにもない"
"ないわけねーだろ。戻りも遅けりゃ、化粧時間も長すぎる"
"ないもんはない。なに見張ってるの、えっち!"
"帰り拉致決定"
"えー"
"文句は却下。強制!"
"えー"
"上見ろ、上!!"
上?
思わず天井を仰ぎ見れば、こちらを上から覗き込む眼鏡の課長が居た。
さらりと黒髪が揺れた。

