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いじっぱりなシークレットムーン
第13章 Final Moon
最初は、美幸夫人が今でも朱羽と専務を傷つけようとしているのだと思った。忍月支配を目論む中で、ふたりを今まで通り恐怖で取り込もうと。
しかし話を聞く限りにおいて、その様子を観察している限りにおいて、美幸夫人はタエさんを代理にはしているけれど、タエさんが副社長を使ったように、忍月を乗っ取ろうとか壊してやろうとか、そこまでの黒い執念は感じないのだ。
そう思うと、タエさんが副社長を使ってシークレットムーンにしたことは、美幸夫人の指示だったのだろうかと疑問を覚える。
彼女は本当に、自分の意のままに動く次期当主を、打ち立てようとしたのだろうか。
……あたしは、そう思えなかった。
忍月本家に住んでからの長い年月の中、そうした野望があったのなら、とうに行動していると思う。彼女は当主ほどにないにしても、権威があるのだから、もっとうまく出来たはずなのだ。
そしてなにより、気丈な態度をとる彼女はそうした……かつての彼女を虐げた者達のような、支配欲だの金銭欲だのいう、世俗めいた欲望があるようには思えない。
それを願って動いた時点で、彼女は免罪符をなくすから。
彼女は、虐げた者達と同じ穴のムジナだったのだと、彼女もまた、不相応な望みを持つから虐げられたのだと、彼女が認めることになる。
あれだけ自分は被害者だと言うのなら、彼女自身が憎む輩と同じにならないような気がするんだ。彼女の矜持にかけて。
愛する夫も、八つ当たりのように欲望をぶつけた専務もいない屋敷に、表面はどうであれ彼女を内心疎んじる当主がいて、今も昔も欲の権化になりえる使用人がいて、肩身狭い思いをしていながら、姉妹で尚この本家に居る。
本家への愛情がないのに、それでも執着している理由は?
朱羽の詰るような声が続く。
「その姿を嫌悪するのなら、早々と屋敷から出て治療でもなんでもすればいい。屋敷にはあなたの顔をしたタエさんが、美幸さんのふりをしてくれているのだから、この家にあなたはいなくてもいいのだから。あなたがこの屋敷でしたいことは、タエという名の使用人の仕事ではないでしょう?」
当主も辟易するほど、本家に固執する理由は?
確執があるタエさんに協力を願い、自分のふりをさせ、タエさんを自由にさせている理由は?
彼女の傀儡ではないのなら、タエさんの意味はなに?