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いじっぱりなシークレットムーン
第13章 Final Moon
「――と、思っていました。が、俺の知らないところに、また違う真実があるのだとしたら、俺の固定概念が真逆であったのなら、また違う見方も出来る」
ああ、朱羽。
そうだ、あたしが彼女に抱いているものが、もし"逆"だとしたら。
彼女は忍月を恨み続けているという先入観すら、反対であったのなら、事実はまた変わってくる。
「正直、なぜあなたは今の……そのスタイルを貫こうとするのか、理解に苦しむ。だけど、あなたもまた、どんな理由によるものとしても忍月の血が流れている者達と同様、忍月のためにと我が身を投げ出すのであれば、これほど哀れなことはない。恐らくそれは、他人には理解を得られない、あまりに身勝手すぎるものだから」
朱羽が行き着いたもの。
「朱羽、おい……もしかして……」
「恐らくは」
専務が行き着いたもの。
その先に見えるのは――。
「ああ……それが、あなたの行き着いた結論なんですね」
あたしの言葉に、老女の澱んだ目が肯定するように揺れる。
「かつてこの忍月にあなたがかけた呪いを、そしてあなたがかけられていた呪いを、あなたは今……消そうとしている。あなたを中心に乱れた本家の規律を正すために、核であるあなたを使用人から切り離そうとしている。それが、使用人が言っていた呪いの正体です。あなたは容貌を利用した」
老女は否定をしないで、静かに目を伏せた。
使用人が、自分の立場をわきまえずに好き勝手に女主人の座を夢見るのは、美幸夫人を軽んじられるほどに、彼女と密接すぎたから。
正しい規律……主従関係を明確にさせるには、彼女を恐れさせる必要があった。しかし彼女は人前に出られない容貌となり、彼女は遠隔的に"噂"を拡大したのではないだろうか。
彼女が老いたタエさんのふりをして、夫人を噂する使用人達にああも厳しく叱咤したのは、自分の悪口に憤怒した……だけではなく、呪いと怒れる老女というホラー的な演出にも思えて仕方がない。
滑稽とも自虐的とも言える、二役を演じたおかげで、呪いは真実味を帯び、使用人達は美幸夫人の噂も出来ないほどに、恐れるようになった。