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いじっぱりなシークレットムーン
第13章 Final Moon
そしてさらに使用人達を追い詰めたのは、シゲさん。
おかしな力をもつとされる美幸夫人を世話するシゲさんが、噂の肯定も否定もしなければ、噂は勝手に尾ひれをつけて膨らんでいき、皆が創り出した妄想にて美幸夫人を恐れ、従うようになる。
恐怖の利用が正しいとは言い切れないけれど、その上下関係こそが、女主人と使用人の正しい関係と……忍月に失われていた秩序を回復しようとしたのだ、美幸夫人は。
問題は、なぜ美幸夫人がそんなことをしようと思ったのか。
忍月の犠牲者が、なぜ忍月の救済に乗り出したのだろう。
あたしは、それがまだわからない。
「なによ、その呪いって」
この場でわからないのは、タエさんのみ。
驚いたままの沙紀さんは……わかったようだ。
美幸夫人の代理をしているタエさんが、美幸夫人の真意をわからないのなら、やはり、副社長を使ったのはタエさんだけの独断の可能性が高い。
タエさんは、他人のあたしでさえ行き着いたものを、わかっていない。
なぜ美幸夫人が、矜持を捨ててまで自分の身代わりをさせているのかを。
わからないのは、死んだ男を巡る確執のせいなのだろうか。
双子なのに、理解をしようとしなかったのか。
「それは……「話すな」」
あたしが説明しようとしたら、美幸夫人が反対した。
「私を理解出来ぬ者は、無理に理解させようとしなくてもよい。それでいい。私は、理解を求めたいわけではない」
美幸夫人は朱羽と専務を見て言う。
「……ただ……思うのだ。私が苦痛を味わいながらもこの本家で、私が創り出せたものがなにもない。そのことが、無性に寂しいと」
それは当主も似たことを言っていた。
「姉達がいても、この心の渇きは癒やされることがなく。そこで初めて、あのひとを理解出来た気がする。愛する父親が居ても尚、血の繋がるものを残そうとしたわけが」
美幸夫人は、静かに静かに言った。
「……遺書が、あったのだ、あのひとの。それをあのひとがまだ元気なうちに書いて入れたのだろう、私の鏡台の引き出しの奥に入っていた。まだ死んでもいない時に」
「遺書!? 聞いてないわ、私……」
「……燃やした。跡形もなく」
「どうして!?」