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いじっぱりなシークレットムーン
第13章 Final Moon
「遺書にはこう書かれてあった。意識がなくなったら殺してくれと。そして私に忍月を託すと。それが、私が嫌っている男からの最期の頼みだと。……死後も私を忍月に縛る、どうしようもなく身勝手なものを、残しておきたくなかったから、燃やした」
「そんな、美幸……っ」
「死ぬのが決定事項だと、死んでも尚私を縛ろうとするのが腹立たしく、許せなかった。私をこんな目に遭わせておいて、そんなに死にたいのならとっとと死ねばいい。……生命維持装置をやめるよう、私は医者に言った」
厳しい面持ちの美幸夫人に、タエさんが悲鳴のような声を上げる。
「黙れ。あのひとが余命幾ばくもないと知ったお前が、あのひとが抵抗する体力もないのをいいことに、病室に忍びこんでなにをしていたのか、私が知らないとでも思ったのか! その腹に、あのひとの子供は宿ったのか!?」
「そ、それは……」
……姉妹揃って専務へのような逆レイプ、ドロドロだ。
「医者が生命維持装置を外した瞬間……、意識ないはずのあのひとの目から涙が零れた。渉のようにその場面が頭に焼き付いて離れない。……あのひとは生きたかったのか、それとも、病気の苦しみから解放されて嬉しかったのか。どうしてもその答えが見つけられない。いまだ、私を縛るのだ」
それは――。
「あたしは、そのどちらでもないと思います」
「え?」
「ありがとうと、そう言った気がします。あなたはどんな思惑があったにしろ、きちんとご主人の遺志を継いでくれたのですから」
そう、夫が遺書に残した……意識がなくなったら殺してくれ……その遺志を、彼女は受け継いだに過ぎない。
人道的に倫理的に反した"殺意"の形ではないかもしれないけれど、それでも故人の望みだったのならば、それを詰ることは出来ない。
「ご主人が望んでいるものを、あなたはしてあげた。ご主人は、どんなに辛いことでもあなたなら、してくれると信じていた。だから、ありがとうと妻に感謝をしたのだとあたしは思います。……そこに相思相愛の夫婦の形が見えてきませんか? 子供がいなくても、あなたとご主人は」
「……っ」
強くいようと毅然としていた美幸夫人の表情が崩れた。
そこから見えるのは、悲哀。それは後悔にも似て。
そんな人間的な感情が出せるのだと思ったら、なぜかあたしは……ほっとした。