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いじっぱりなシークレットムーン
第13章 Final Moon
不器用な恋愛の形――。
愛していると言葉を伝えられることは、どんなに素晴らしいことなのか改めて実感する。
ひと言、本人に言えばよかったのだ。
夫も、美幸夫人が自分を嫌っていると思っていても、自分は愛していると。
美幸夫人も、愛しているから他の女のところに行かないでくれと。
拗れにいいだけ拗れて、そして朱羽と専務まで巻き込み、あれだけの悲痛な想いをふたりの深層にまで、くっきりと刻み込んだ。
悲劇が拡大してしまった。
「……冗談じゃないわよ」
そう呟いたのはタエさん。
「どうして美幸が愛されるのよ! どうして遺書が美幸のものなのよ!」
……ああ、彼女も縛られている。
「あのひとの子供も産めない女を! 美幸といたら、あのひとの血流が絶えるというのに!!」
血統主義の忍月の呪いに。
「だから、後々のことを美幸夫人に託されたのだと思います。……本家を、美幸夫人との子供の代わりに、愛してくれと。守ってくれと」
「はあああああ!?」
タエさんは、下卑た声での悪態を見せた。
「美幸のこの顔で、どう忍月が守れるの! 忍月を好きに出来るのは、私なのよ。私だけが、子供である忍月を生かすも殺すもできるの!」
……わかろうとしない彼女に、あたしは腹が立ってしまった。
彼女は、美幸夫人を虐げた使用人達と同じだ。
「あなたは、死んだ次期当主の妻という地位が嬉しくて、色々勘違いされたのです。あなたは、美幸夫人の身代わりでしかない。彼が生きていても死んでいても、唯一無二の妻は美幸さんでしかない!」
忍月を支配するために次期当主を自分の手で打ち立てたのは、忍月を支配する当主が選んだ者を認めたくなかったのだろう。だから副社長を使って、当主の孫である専務を排斥し、芋づる式につり上げた弟達も一網打尽にしようとした。
だが、彼らが排斥されず、なおかつ次期当主という傀儡になる意志がないことをわかっていながら、強制的に次期当主を確定させる見合いの席に現われたタエさんに、朱羽をどうこう出来る策があったのかなかったのかはわからない。
しかし、朱羽なら。世俗の垢にまみれていない、一番若い25歳なら、なんとか出来るのではと、彼が次期当主の話を進めたのではないか。
無論、朱羽と寝て手懐けようとしたのだろう。